第二百九十一話 奇跡ではなく、ご都合主義じゃないかな?


【メアリー視点】


 ――もしも、コウタロウがアズサ、キラリ、ユヅキと仲良しだったなら。

 その先に、物語なんてあるわけがない。


 コウタロウが、アズサにとって『本物のおにーちゃん』になれる未来はない。

 コウタロウが、キラリにとって『親友』になる可能性はない。

 コウタロウが、ユヅキにとって『最愛の幼馴染』になる要素がない。


 これらはただの偶然じゃない。

 コウタロウ、アナタだって分かっているはずなのに、どうしてシホの言葉なら信じてしまうんだい?


 ワタシたちはただの人形。

 物語の奴隷であり、それ以上でもそれ以下でもない。


 本当にバカバカしいよ。この偶然を『奇跡』だなんていう言葉で飾り付けるような人間がいたなら、ワタシはきっとそんな人間とは永遠に仲良くなれないだろうね。


 それはただのご都合主義だ。予めプロットで定められていること以上の動きを、ワタシたちキャラクターができるわけがないんだから。


「さて、いいかげんに停滞しすぎだねぇ」


 探偵から受け取った資料に目を通しながら、思わずため息をこぼしてしまう。

 せっかくワタシが停滞していた物語をぶち壊して、先に進めるように促してあげたのに……まだ進行が遅かった。


 ワタシが読者ならブチギレているだろうね。さっさとストーリーを進めろよ――って。

 とはいえ……まぁ、現実という作品は本当に退屈で、つまらない。読者が気持ち良いストーリーの進行なんて有り得ない。


 だから、ワタシのような俯瞰の目を持っている人間が、ちゃんと手を出して物語が動かざるを得ないようにしないといけないのだ。


「うーん、どこまで進めたっけ?」


 資料をファイリングして、壁に貼ってあるストーリーの進行表を眺めてみる。自分の部屋ながら本当に気味が悪い光景だけど、こうやってちゃんと目に見える形で確認しないとミスが目立つから、仕方ない。


 えっと、ワタシが手を出したのは……そうだ。


 まず、アズサが持っていたリョウマへの恋心を思い出させてあげて、ハーレム要員に引き戻してあげた。


 それから、ユヅキとリョウマの仲がこじれたことをきっかけに、コウタロウと再会させてあげて……彼女の心を追い詰めた。


 そんな苦しんでいる二人を見て、いよいよリョウマのことを放っておけないとコウタロウが決意したんだよね。そして、ようやくリョウマにアズサ、キラリ、ユヅキの三人がコウタロウと縁の深い女の子だちだって暴露したわけだ。


 結果、リョウマは『中古品を押し付けられた』などという面白いことを言って、コウタロウを殴ろうとして、そこで邪魔――間違えた。シホが割り込んできたわけだ。


 ざまぁ系ラブコメが好きなワタシとしては、リョウマがいい感じに苦しんでくれているので楽しかったのに……あのままコウタロウを殴っていれば、もっと嫌悪感が強くなって、更なる『ざまぁ』を期待できたはず。


 そうなっていたら、今後リョウマが不幸になった時、激しいカタルシスを感じられたかもしれない。だけど、シホはいつもワタシの邪魔をするから、本当に嫌いだなぁ。


 あの子はいつもワタシの計画を台無しにする。

 シホさえいなければ、黒幕のワタシがさらに暗躍できたかもしれない。でも、あのヒロインのおかげでワタシが思い描くプロットが壊されるので、大変だ。


 しかも今回は、過去の回想とかいうくだらない話でテンポがさらに悪くなったし……困ったねぇ。これではワタシが望む結末を見る前に、物語が止まりそうだ。


 それはいけない。

 さすがにそろそろ軌道修正が必要だ。


 ぐちゃぐちゃになっている要素を整理して、各キャラクターの心情を理解し、イベントと合わせてストーリーを進行する。


 それが今の、ワタシの役割。

 なんでもできるチートキャラという設定なので、色んなことをやらないといけないわけだ。


 まったく、ただの金髪巨乳お色気キャラでいられたなら、もうちょっと能天気に生きられたのに……やれやれ、クリエイターもなかなかたいへんだよ。まぁ、自称なんだけどね。


 さて、どうしたものかなぁーー

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