第二百七十六話 回想その4


「キラリおねーちゃん……も、もしかしてっ」


「キラリさん、本当ですか? え、なんですかそのリアクション……!」


 キラリは俺達の元に戻って来るや否や、崩れ落ちるようにうずくまった。


「みんな……高校が離れても、あたしたちは友達でいられると思う?」


 最悪の結果を匂わせる発言に、梓と結月は顔まで顔が強張っていた。


「で、でも、キラリおねーちゃんすごく成績良かったよ!? メガネかけてるし、落ちるなんてありえないよっ」


「そうです! 三つ編みでもありますから、きっと合格してますよっ」


「……メガネと三つ編みって知能と何か関係あんの?」


 実際、中学時代までのキラリは基本的に優等生だった。

 結月ほどではないが学年でも上位10人には入っていたし、もっと高いレベルの高校だっていけたはずである。


 しかし彼女は、自身にとって少しレベルの低い高校を受験した。

 その真意は、残念ながら分からない。聞いたことがないからである。


 だけど、もしかしたら……俺や梓、結月が受験したから――だったのだろうか。

 その答えは俺にはもう一生分からないだろうけど。


 閑話休題。話を戻そう。


「だからキラリおねーちゃんが不合格なんて何かの間違いだよっ。ほら、受験票貸して? 梓がちゃんと確認してあげるから!」


「確かにキラリさんはおっちょこちょいなところもありますね。あ、ついでに幸太郎さんのも見てきますから、受験票もらってもいいですか?」


「わかった。よろしく」


「えー? あたしは別におっちょこちょいじゃないとと思うけどなぁ……あれ、もしかして二人ってあたしのことちょっとバカにしてない?」


 キラリが首を傾げながら受験票を梓に渡すと、二人は即座に掲示板に向かっていった。


 そんな二人の様子を眺めていると、うずくまっていたキラリがケロッとした表情で立ち上がる。


「ま、ウソなんですけどね。二人は本当に面白いなぁ……不合格になったなんて一度も言ってないのに、めちゃくちゃ慌ててたね」


 どうやら先程は演技をしていたらしい。

 驚かせたかったのだろうか。だとしたら、梓と結月の表情を見るに、大成功だったと思う。


「合格してたんだ。おめでとう」


 とりあえず祝福の言葉を送っておく。

 しかし、キラリは少し物足りなさそうな顔で、俺を見ていた。


「……こーくんは、あたしが不合格って言ってもあんまり慌ててなかったね。そんなにあたしに興味ない?」


「そんなことないよ」


 それはまったくご誤解である。興味がないわけじゃない……ただ、リアクションが薄かっただけだ。

 当時の俺は今よりもずっと感情表現が薄かった。そのせいで、キラリが望むような行動をしてあげらなかったのである。


「ふーん? まぁ、別にいいけど……こーくんはあたしの期待以下だったけど、二人は期待以上だったし」


 そう言って、キラリは優しく微笑む。

 俺と出会うまでずっと一人だった彼女は、梓と結月と出会ったおかげか、表情が柔らかくなった。


「あずちゃんとゆづちゃんは、あたしのこと友達と思ってくれてるかなぁ」


「……それは、もちろん」


 根が優しくて、だけど少し大人しい二人にとって、積極的なキラリは相性がいい。だから仲が良いように見えるし、その関係は間違いなく『友達』だったと表現できる。


 そんな三人を見るのが、俺は好きだった。

 自分が中心にいなくても、楽しそうにする三人のそばにいられるだけで、幸せだったのだ。


 だから自分の欠点を克服する努力をしなかった。

 いや、向き合うことさせ放棄して、現状のままでいいと思っていたのである。


 まったくもって、恥ずかしいものである。

 今にして思うと、それはただの『驕り』だった――

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