第二百七十一話 俺が傷つくことを俺以上にイヤがってくれる女の子
「どうしてここにいるかって? そんなの決まってるわ。ストーカーしてたの」
彼女は素直に自白した。
「ほら、私ってとても耳がいいでしょう? かなり距離が空いてても音が聞こえるし、幸太郎くんの足音なら分かるから、気付かれないようについてきたわ」
ちょっと申し訳なさそうに、しほがここに来た経緯を説明する。
「最近、なんだか悩んでたみたいだから、気になっちゃって。あと、あんまり構ってくれないから、寂しくて」
寂しかったのかぁ。
いや、でも確かに最近は以前ほど一緒に過ごすことが少なくなったかもしれない。
年が明けて、胡桃沢さんの一件もあって少しギクシャクしてしまった。
なんとか関係は修復したけれど、やっぱり影響は残っていて、ほんの少しではあるけどすれ違いも生まれてきているのだと思う。
その微妙な空白を、しほはイヤがっていた。
「でも、あんまり問い詰めすぎても嫌われちゃうと思ってて……本当は知りすぎない方がいいとは分かっているのよ? 幸太郎くんだってプライバシーがあるし、そこはちゃんと大切にしてあげたいと思っているわ。でも、やっぱり知りたくて、ついつい盗み聞きしてたの」
「つまり、バレるつもりはなかったってこと?」
「ええ。こっそり様子を把握したら、大人しく帰るつもりだったけれど……幸太郎くんが殴られそうだったから、我慢できなくなっちゃったわ」
しほが姿を現したのは、竜崎が手を振り上げた瞬間だった。
もし、しほが飛び出してくれなかったら、そのまま殴られていたと思う。
俺も、殴られることを受け入れていた。
『俺なんていくら傷ついても構わない』
自分自身のことを、未だに大切にできていなかった――そういうことなのだろう。
でも、しほがそれを許さなかった。
俺が傷つくことを彼女は彼女が阻止してくれたのである。
(こういう部分が、未熟なところなんだろうな……)
先程の自分を省みる。
以前よりは自分をちゃんと思いやるようになったけれど、まだ足りなかった。
「ご、ごめんね? あの、私はやっぱり幸太郎くんのこと、大切に思ってるから……ついつい変なことをしちゃうみたいだわ」
しほも、自分では止められないのかもしれない。
過干渉しすぎている自覚はあるみたいで、申し訳なさそうにしていた。
……ああ、間違っている。
しほにそんな顔を差せているのだから、俺の行動が全て間違っていたのだと、改めて強く思った。
「謝る必要なんてないよ。むしろ、こっちこそごめん」
しほは俺のことをこんなに深く思ってくれている。
その思いを、否定するなんてありえない。
「心配してくれて嬉しいし、大切に思ってくれて感謝してる。だから、謝らないでほしい」
そう伝えて、しほの手を握った。
小さな手を包み込むように両手で覆って、優しく思いを伝える。
「俺のこと、守ってくれてありがとう」
それから、しっかりと感謝も伝えておいた。
しほの思いはきちんと伝わってるよ――そう言ってあげると、しほはシュンとした顔から、嬉しそうな笑顔に切り替わった。
「か、感謝なんてしなくていいわっ! でも、その……嫌いになってないなら、それだけでいいもん」
「嫌いになんて絶対にならない」
そんなことできるわけがない。
俺が傷つくことを俺以上にイヤがってくれる女の子を、嫌いになれるわけがないのだから――
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