第二百六十三話 激突
思い返してみると、俺が竜崎と直接的にぶつかったのは、宿泊学習の時だけである。
高校生になってから、色々あった。
しかし、なんだかんだ俺と竜崎が交錯する場面は少なかったのである。
なぜなら俺はモブキャラであり、単なる語り手だから――と、思い込んでいた。
でもそれはただの言い訳でしかなく、もしかしたら俺は立ち向かう勇気が出なかっただけなのかもしれない。
まぁ、別に立ち向かう必要性などそもそもないので、見なかったふりをしてしまえば、こんなに悩まなくてもすむのか。
竜崎としほはもう別々の道を歩んでいる。
幼馴染という呪縛から逃れた彼女は、穏やかな物語を紡いでいる。
だから、余計に首を突っ込みたくないというのが、本音ではある。
だけど、ここで見ないふりをしてしまったら……俺はいつまで経っても成長できない気がした。
今一歩、しほとの関係性が進展しないのは、俺に原因があるからだ。
モブキャラだからという言い訳を隠れ蓑にして、清算するべき過去を放置した結果が、今の俺である。
しほが俺の愛情に対して物足りなさを感じているのも、やっぱり俺の『過去』が理由の一つだと思うのだ。
(今になってもまだ、俺はあの子たちのことを気にかけてしまっている……)
もう忘れてしまってもいい頃合いなのに。
いや、無関心でいることが当たり前だとすら思う。
しかし俺は、今に至ってもまだ……三人のことを気にかけてしまっているのだ。
(梓、結月、キラリのことが、どうしても心配になってしまうのは……俺があの子たちへの思いを、振り払うことができていないからだ)
幼馴染であり、義妹であり、元親友。
そして三人は、俺じゃない人が大好きである。
過去、俺は三人に対して特別な思いを抱いていた時期がある。
その感情は『好き』とまではいかないけれど……間違いなく『大切』だとは思っていたはずだ。
とはいえ、たかがその程度の思いをここまで引きずるのは、やはり異常な気がする。
強い言葉で表現するなら、それは『執着』と呼べるものかもしれない。
(いいかげんに、けじめをつけたないといけない)
しほは愛情深い少女だ。
他の女の子を気にかけている程度の愛で、満足なんてしない。
(しほのことが、大好きだから)
彼女に受け入れてもらえるくらいの男になりたい。
そのためにも、過去の思いを断ち切る必要がある。
(もういいかげんに、卑屈になるのはやめよう……っ!)
覚悟を決める。
自分の行動に対する指針を定めて、ギュッと拳を握りしめた。
(――立ち向かえ)
問題から目を背けるな。
過去の残影を、いつまでも追いかけるな。
後悔の思いなんて、捨ててしまえ。
(もう俺は、あの子たちを幸せにすることなんてできないんだから……っ!)
主人公に『なりそこなった』ことを……三人を救えなかったことを悔やむのは、もう終わりだ。
あの子たちのラブコメは、俺の手の届かない場所で紡がれているのだ。
だからそれを、見届けたい。
そして願わくば……報われてほしい。
幸せになってほしい。そのためにも、託す必要があった。
いや、表現が違うか。
俺はあいつに、『分からせる』必要があるのだ。
(お前にしか、幸せにできない少女たちがいる)
それは一人だけじゃない。
一人だけ幸せにしてハッピーエンドを迎えられるほど、お前の業は浅くないのだ。
そのことを、伝える必要がある。
「――おい、竜崎」
だから俺は、声をかけた。
放課後、一人で帰ろうとしていた竜崎に呼びかける。
するとあいつは……ゆっくりと振り返って、俺を見た。
「……なんだよ」
そうしていよいよ、その時が訪れる。
宿泊学習以来、二度目の『激突』だった――
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