第二百五十三話 同じ敗北ヒロインだから
外に出てすぐのこと。
「やっぱり俺は間違っていた」
ついてきたコウタロウが、呻くように言葉を吐き捨てた。
彼は悔しそうに歯を食いしばりながら、ワタシを睨んでいる。
「少しだけ、メアリーさんに心を許してしまった自分がいた。過去の行動はただの過ちで、反省した君は、害がなくなったと無意識に思い込んでいた」
だけど、ワタシという人間をコウタロウは見誤っていたのだろう。
「やっぱりメアリーさんは、信じていい人間じゃない」
「そう言われるのは寂しいねぇ」
「白々しいことを……! 最初から拒絶するべきだった。せっかく、梓が立ち直っていたのに、メアリーさんが弄んだせいで……また彼女は、苦しむことになってしまった」
ああ、それはそうだろう。
何せアズサは、リョウマへの思いをもう一度思い出してしまったからね。
古傷が開いたのだから、苦しまないわけがないだろう。
「俺のミスだ……くそっ!」
義妹を守り切れなかった後悔のせいか、コウタロウは歯を食いしばっている。
そんな彼をニヤニヤと眺めるのも悪くないけれど、そろそろ時間なので、ワタシはゆっくりと歩き出した。
「コウタロウ、文句が言いたいだけなら歩きながらにしてもらおうかな?」
「ちょっ……待てよ、話は終わっていないっ」
慌てた様子で、彼はワタシを追いかけてくる。
「何が目的なんだ? 梓を巻き込んで、何がしたいんだ? これ以上、梓を傷つけるのは俺が許さないぞ?」
コウタロウは知りたがっている。
ワタシの目的や、意図を把握して、小動物みたいに愛らしくい義妹を守ろうとしている。
だけどそれこそが『過保護』だと、どうして分からないのかな?
「――小さなカゴに閉じ込めて、餌をやって、さえずる小鳥を眺めるのは幸せかもしれないけれど」
でも、視点を変えて考えてみよう。
「その小鳥は、保護されてさえずるよりも……大空を飛び回っていた方が幸せだとは言えないかな?」
たとえ、外敵の危険があったとしても。
餌の入手が難しいとしても。
自分の力で生きている方が、飼われているいるよりも美しい。
ワタシはそう思うよ。
「箱庭にあるささやかな幸せで満足する……その程度の女の子なら、そもそもリョウマに恋なんてしない」
そして同時に、ワタシはこう思っている。
「普通の幸せで喜ぶような物語なんて、退屈で仕方ないよ」
これはもう、ワタシの建前であって本音だ。
アズサという少女を巻き込んだのは、ワタシの快楽のためであり、そして……彼女のためでもあるのだから。
「好きか嫌いか白黒つけさせてあげないとアズサは一生後悔するよ?」
「……そんなの、分からないだろ。彼女の感情を、どうしてメアリーさんが分かるんだ? 普通からほど遠い人間に、一般的な感覚を持ったあの子を、本当に理解できてるのか?」
「理解は……できてるさ」
残念ながら、ワタシはアズサの気持ちを痛いほど理解できる。
なぜなら、
「だってワタシも、敗北したサブヒロインだから」
ワタシが苦しんでいるのだから、アズサが後悔していないわけがない。
そしてワタシはもう、素直になるにはひねくれ過ぎているから……まともな幸せを、諦めている。
だけど素直なアズサなら、まだ取り戻せる。
「たとえ、ハーレム要員の一人だとしても……サブヒロインが幸せになるラブコメがあってもいいだろう?」
そのために足掻くことが悪だなんて、ワタシは思わない。
だからコウタロウが過保護でいることを、ワタシは肯定できなかった。
「もしかしたら、結果的にもっと傷つくことになるかもしれない。アズサがリョウマを殺したいほど憎み、嫌いになる可能性だってある。だけど、それこそが失恋であり、それこそが愛の終わりになる……だから、今の停滞を続けるのはアズサのためにも良くないと、ワタシから言っておくよ」
――と、こんな感じでアズサの件に関しては締めさせてもらおうか。
それはそうと、コウタロウ……アナタはどうして、今も部外者のふりをしているのかな?
「いや、でも、そんな……!」
何やら反論しているところ悪いけど。
もう、時間になったよ。
「――色々、言いたいことはあると思うけど、ひとまずそれは心の中にしまってもらおうかな」
強引に話を遮って、ワタシは彼の言葉を止めた。
「彼女が来たよ」
そう伝えて、道路の先を見るように促す。
「は? 何が、言いたいんだ……?」
コウタロウは促されるままに、ワタシの示した方角を見る。
そして見えた彼女の姿に、彼は言葉を失った。
「……ここで、結月かよ」
登場した重要キャラクターの存在に、彼はうんざりしたように呻いた。
さて、コウタロウが蚊帳の外でいるのは、もう終わりだ。
「アナタがかつて愛した少女が苦しんでいるよ。果たしてコウタロウは、そんな彼女を無視できる?」
そろそろ、コウタロウとサブヒロインたちの過去も、清算する時だ――
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