第二百四十七話 メタメタでちょっとうるさい地の文
さて、どうしたものだろう?
たとえばここでワタシが差し込まれるとするならば、きっと何かしらのアクションを起こしたのがいいはず。
通常であれば、このあたりでモブキャラ君の視点に切り替わってもいいところだけれど……彼の出番は、もしかしたらまだなのかもしれない。
「語り手はコウタロウの役割なのにねぇ」
まぁ、ぼやいても仕方ない。
ワタシは完璧無欠の万能キャラで便利キャラ。敵役はもちろん、トリッキーな立ち位置も、恋するサブヒロインも、滑稽な道化役でさえ演じられる優秀なお姉さんなのだ。
できないキャラといったら、メインヒロインとか、主人公とか、そういう『本物』くらいである。
小者なので、大物以外はなんだってできる器用なキャラクターであることを自負している。
そういうことなので……語り手として、彼らの物語に参加するのも悪くはないかな。
「ふむふむ、どうしたものかなぁ」
ファイリングされた報告書を眺めながら、思考を巡らせる。
ズレたメガネの位置を直しながら『竜崎龍馬に関して』という、探偵から受け取った情報を精査していた。
場所はおなじみ、ワタシの私室。
メアリー邸にある数ある部屋の内の一室で、ワタシは100万円以上する意味不明に高い椅子に腰かけながら、メガネをゴミ箱に捨てた。
「やっぱり目が痛い」
「お嬢様、ご自愛なさってください」
お世話してくれるメイドさんにたしなめられてしまう。
たまには知的キャラも悪くないと思ってメガネをかけてみたけれど、度が合ってなかった。そもそも視力が異常に良いので、メガネなんてかけるだけで体に悪かったのかもしれない。
「はぁ……ワタシは語り手よりもお色気要員がいいのになぁ。ほら、入浴シーンとか着替えのシーンで主人公とラッキースケベを起こすサブヒロインっているよね? ああやってゾンザイに扱われるのも悪くない」
「さようですか」
「ほら、ワタシって意味不明にスタイルいいから、画面映えすると思うんだよねぇ」
「仰る通りです」
「……つまんない」
冗談を言っても、ここの使用人はロボットみたいに無機質な回答ばかり。
相変わらずこの屋敷はワタシにとって退屈だった。
そんなんだから、ワタシは物語に傾倒してしまったのだろうなぁ。
浮気をして痛い目を見て、今はどこで生きているのかもわからない母とか、愛する人に裏切られて復讐を果たしたくせに未だに満たされない思いを仕事にぶつけている父とか、ワタシの周りにはつまらない人間しかいない。
ワタシが生まれた頃は、会社名を『メアリー』にしてくれるくらい娘を溺愛してくたせに、人間っていうのはどう変化するか分からないねぇ。
コウタロウ、おかしい両親を持って苦労しているアナタの気持ち、痛いほどよく分かるよ。
…………おっと、余談がすぎたかな?
ワタシ程度のキャラクターで無駄話をしすぎたかもしれない。
いや、でもわたしってシホと並んでオシャベリだし、地の文がうるさいのはある意味では様式美と言っても過言ではない。
コウタロウとかリョウマの独白は遊びもなくて読んでいたら目が滑りそうだし、たまにはワタシみたいなアクセントがあっても悪くない。
そういうことにしておこう。
さて、閑話休題。
つまりワタシが語り手になったということは、いい感じで物語をかき乱してほしいということなのだろう。
「ふむふむ……もっと面白くするには、あそこの繋がりも復活させておかないといけない」
思案する。
無駄にでかい胸を軽く揺らしながら、プロットの流れを構築する。
よし、このあたりでモブキャラ君にもご登場いただこうか。
「ユヅキとコウタロウを、引き会わせてあげようかな?」
意識的か、あるいは無意識にか、コウタロウはユヅキを避けている。
本人に自覚があるかどうかは知らないけど、二人が極端に顔を見合わせないのは、コウタロウに原因があることはなんとなく察している。
だから、ワタシが無茶苦茶にしてあげよう。
油断するとすぐに停滞しがちなコウタロウを操るのは、ワタシの得意分野でもある。
幸いなことに、今はシホがあまりコウタロウに介入しようとしないし……仕掛けるなら、今だろう。
そういうことで、ワタシは椅子から立ち上がった。
「お嬢様、どこへ?」
「舞台に上がるんだよ。ワタシは多忙なキャラクターだからね」
「さようですか」
適当な答えに対して、使用人は興味がなさそうに頷いた。
まったく、物語のないキャラクターだなぁ……モブキャラっぽいと言えば、それまでだけど。
だからこそ、ただのモブキャラから這い上がった彼のことを、ワタシは結構気に入っている。
「コウタロウ、またワタシを楽しませてくれよ?」
彼を舞台に引きずり上げてあげよう。
リョウマの崩壊しかけているハーレム物語に、コウタロウも巻き込んでやろう。
その先に、はたしてどんな物語があるのか。
その答えは、ワタシにもまだ分からない。
でも、分からないからこそ、物語は面白いよね――
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