第二百三十七話 メリークリスマス その二


 彼からのクリスマスプレゼントは、ネックレスだった。


「うふふ♪ 幸太郎くんったら、アクセサリーをプレゼントするなんてとっても素敵だわ。『俺のことを忘れないようにずっと身につけていろよ?』なんて、そんな恥ずかしいこと言わないでっ」


「……言ってないんだけどなぁ」


 公園のベンチに座る彼は、苦笑しながら頬をかいている。

 照れ隠しだったら良かったのだけれど、残念ながら今のセリフは私の捏造なので、彼は本心から困っていた。


「ネックレスがほしいって言ったのもしほの方だしな……」


「だって、幸太郎くんのことを常に感じていたかったんだもん♪ ふとした拍子に『あ、幸太郎くんからもらったプレゼントだ!』って思うことができるんだから、とても素敵じゃないかしら?」


「……ちょっとだけ重たいぞ」


 重たいなんて言われても、じゃあ軽くしようとは思わない。

 だって私の愛は今でも十分に抑えているのだから、これ以上軽くしろなんて言われても無理だもん。


「でも、これで良かったのか? チェーンだけのネックレスなんて、ちょっと地味な気もするけど」


 そう言って、彼は私の首にあるネックレスをジッと見ていた。

 普通なら、ネックレスには『チャーム』と呼ばれるアクセサリーもセットになっているのよね。一般的なものでいったら『ハート』とか『クロス』とか、そういうアクセサリーがたくさんある。


 でも、今回私がおねだりしたのは、チャームのないチェーンだけのネックレスだった。


「これでいいの。お値段もお手頃だったでしょう? 私はね、愛は重いけれど思いやりのあるタイプだから、わがままはあんまり言わないの。どうかしら? いい女だと思うのだけれど、かわいい?」


「はいはい、かわいいのは分かってるから」


 隙あらば褒めてほしいので催促は欠かさない。

 幸太郎くんも期待に応えて褒めてくれるので、素直に嬉しかった。


「えへへ~。かわいいなんて言われたら照れちゃうわ♪」


「自分から言わせるように仕向けたのに、照れちゃうのか……」


 我ながら簡単な女の子だと思うけれど、感情は隠せない。

 ニヤニヤしながら、私はギュッとネックレスを握りしめた。


「大丈夫、これで私は満足なのっ。それに、ほら……来年からかわいいチャームをおねだりできるでしょう?」


 もちろん、他にもほしいものはたくさんあった。


 ちなみに一番ほしかったのは幸太郎くんのお箸とかコップとかシャツとかそういう私物だけど、流石に最初にこれをおねだりすると引かれると思ったので、自重しちゃった。


 幸太郎くんとしては『ちょっと重たい』らしいけれど、これでも我慢したのだから、許してほしいなぁ。


「次の誕生日とか、記念日とか、クリスマスとか、そういう日にチャームをもらえたら、思い出と一緒に種類も増えていくでしょう? それって、とても素敵じゃないかしらっ」


 私の作戦は、毎年のようにチャームをおねだりすることだったりする。

 これなら気分によってアクセサリーを変えることもできるから、素敵だと思っている。


 あと、これは口にできないけれど……最終的には婚約指輪をかけたいなぁって、妄想していた。


 結婚指輪は指にハメて、婚約指輪は首にかけて、主婦として暮らす――それが私の夢だから。


「だから、次の誕生日もプレゼントよろしくねっ♪」


 まずは手始めに、装飾のないネックレスをおねだりした。

 幸太郎くんはもちろん、私の意図に気付いていないと思う。


「うん、任せてくれ」


 軽い気持ちで了承してくれた。

 うふふ♪ これで言質はとれたわ……後は約束通り、結婚指輪をもらえるように、がんばりたいなぁ。


 そうなる未来を夢に見る。

 そのためにも、もっと仲良くなりたいから、私からもクリスマスプレゼントを渡した。


「じゃあ、私からは……これをあげるねっ」


 差し出したのは、手帳サイズのフォトアルバム。

 これには、私の幼い頃の写真と、今に至る成長過程の写真をたくさん詰めていた。


「どうかしらっ? 小さい頃の私、かわいい???」


 隣に座る彼に詰め寄る。

 密着するように体を寄せて問いかけると、幸太郎くんは苦笑しながら私の頭を撫でた。


「しほ……」


 それから、仕方なさそうに彼は笑う。

 私の一番大好きな表情を浮かべながら、彼はこんなことを言うのだった。


「愛が重たい」


「えへへ~♪」


 この重すぎる愛を、どうか受け止めてください。

 私の大好きという思いに、あなたが潰されないことを願っているわ。


 いつかきっと、私の全てをあなたへと捧げることができると信じているから。


 その時がくるのを、楽しみに待っているからねっ――

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