第二百三十三話 中山幸太郎の『駄作(ラブコメ)』プロット


◆中山幸太郎のラブコメ


・第三部のテーマ:『モブキャラだった中山幸太郎がハーレム主人公になる物語』



・概要:

 霜月しほとの出会いによって、中山幸太郎は自分のキャラクターを手に入れた。元モブキャラだった無機質な少年は、ついに自らのラブコメを綴るようになる。元主人公だった竜崎龍馬はモブキャラとして地に落ちて、その代わりに中山幸太郎が覚醒を果たした。主人公としてたくさんのヒロインに愛されるようになるだろう。この第三部では、そんな中山幸太郎が、二番目に愛する少女を手に入れる物語である。




・新キャラクター:

『胡桃沢くるり』

 ピンク髪。ツンテール。赤眼。一人称は『私』。身長は小さく、肉付きも薄い。あえて霜月しほと似たような体つき、一人称にすることで、相似性を演出する。初期の霜月しほが『少しだけクーデレ』だったので、同様に胡桃沢くるりにも分かりやすく『少しだけツンデレ』という記号的なキャラクターを付与しておく。


 性格は情熱的で、芯が強い。自分の目的のために手段を選ばない狡猾さがあり、相手を傷つけてでも突き進む非情さも併せ持つ。ただし、自己主張は薄い。中山幸太郎にとって『都合のいいヒロイン』という立ち位置を目指している。物語の終盤では見事に中山幸太郎の心を射止めて『二番目のヒロイン』というポジションを手に入れる。




・ストーリー:

『起』

 第二部を経て主人公へと覚醒した中山幸太郎。彼はヒロインである霜月しほと平穏なラブコメを過ごしていたが、主人公になったのだから、いつまでも間延びしたラブコメを送ることはできなかった。ついに彼と霜月しほとのラブコメに、試練が訪れてしまう。


『承』

 とある日、霜月しほがインフルエンザとなって一週間ほど学校を休んだ。その間に、転校してきた新ヒロインである胡桃沢くるりが、中山幸太郎にアプローチを仕掛ける。中山幸太郎の家族や過去をうまく利用して、彼に回避できない『家庭教師のイベント』を発生させる。そうすることで、中山幸太郎と胡桃沢くるりの繋がりを深くする。


『転』

 一週間という期間を経て、中山幸太郎は胡桃沢くるりを嫌いになれなくなってしまう。まんまと胡桃沢くるりの術中にハマることになるが、「自分を好きになってくれた女の子くらい、幸せにしてみせる!」と、決意する。


『結』

 独占欲の強い霜月しほも当初は難色を示すが、どうにか説得して二人目の愛人を手に入れる。そして彼は、ただの『ラブコメの主人公』から『ハーレム主人公』へと進化していく。


『今後』

 更にハーレムメンバーを増やしていく。過去に関係のあった義妹の梓、親友のキラリ、幼馴染の結月に加えて、メアリーもハーレムのメンバ―に加える。こうすることで、落ちぶれた元主人公である竜崎龍馬との対比的な関係性を演出する。幸せな中山幸太郎が不幸な竜崎龍馬を嘲笑うことで、読者に『快感』を感じてもらう――(終わり)





◆『プロットに対する所感』


 物語の起伏がやっぱり弱い。主人公となった中山幸太郎のキャラクター性が薄いので、どうしても物語が平坦になっているように感じる。そもそも中山幸太郎には『主体性』が存在しない。常に受身なので、自分から物語が動かせていないように感じる。読者が読んでいて『気持ち良くない』無能キャラクターになりがちなので、今回のプロットでは少し難しさを感じてしまう。





◆所感を受けて


 中山幸太郎は、やはり『主人公』として不適格かもしれない。第三部では彼が『ハーレム主人公』に進化する話にしても良いかもしれないと考えたが、それも難しいということであれば、『主人公だと勘違いしていたが、モブキャラだと改めて理解する』お話でもいいかもしれない――







 ――もしかしたら、そんなやり取りがあったのだろうか。


 俺を主軸に作成されたプロットは『駄作』の烙印を押されて、廃案になったのかもしれない……と、他人事のように、そんなことを妄想してしまう。


 自分の無力さを噛みしめながら、脳内でプロットをやり取りする作者と編集者のイメージを想像していた。


 そうやって作り手側の都合で、胡桃沢さんは苦しんでいるように見えたのだ。


 だけど彼女の苦しみは、物語にはまったく関係がない。だからきっと、救済されることもないだろう。


 正直なところ、俺のことはどうでもいい。

 今更『主人公になりたい』なんて贅沢は言わない。モブキャラと分からされたことも、苦とは思わない。


 だけど、胡桃沢さんのことを思うと、胸が痛かった。


 これで彼女の物語は終わってしまう。




 しかし、物語は終わっても、彼女の人生は終わらない。




 今後、胡桃沢さんはどんな人生を歩むのだろうか?

 彼女が幸せにになるには、どうしたらいいのだろう?


 ……まぁ、俺には何もできないから、考えても意味はないのだけど。

 だけどやっぱり、悔しいと思ってしまう。


 物語を変えることのできない自分の無力さが、本当に不甲斐なかった――

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