第二百二十四話 チートキャラ

 それにしても、いったいこの人は何がしたいんだろう?


「おっと、落ち着いてほしいね~! HAHAHA! コウタロウ、そんなにイヤそうな顔しないでくれよ。ワタシとコウタロウはそんなに浅い関係じゃないし、ちょっとくらい雑談してもいいでしょっ!」


 めんどくさいという気持ちが俺の顔に出ていたのだろうか。

 メアリーさんはあえて明るいキャラを作って、肩を組んできた。

 あれだな……イヤガラセだ。俺がめんどくさそうにしたから、もっとめんどくさい態度を取るのが、メアリー・パーカーというキャラクターの性質である。


「離せ」


 軽く払うと、彼女は呆れたように肩をすくめた。


「胸を当ててたのに、なんだいその態度はっ。リョウマだったら『ぐへへw』とか笑いながら喜ぶのに、コウタロウはもっとムラムラするべきだと思うよ!」


「……勘弁してくれ」


 胸が当たったからなんだと言うのだろう?

 確かにメアリーさんは男性にとって魅力的な体をしているかもしれないが、俺にだって選ぶ権利があるのだ。


「えー、なんで? ワタシとコウタロウ、結構相性がいいと思うんだけどねぇ」


「メアリーさんだけは絶対にイヤだ」


「――だからこそ、だろう? お互いに満ち足りない人生を歩んでいるんだから、案外うまくいくと思うよ……コウタロウとシホのラブコメが破綻したら、ワタシのところにおいで? 同じザコキャラクター同士、傷をなめ合って生きるのも悪くない」


「そんな未来はありえないっ……だいたい、メアリーさんはなんでここにいるんだ? 休学してるのに、学校に来てるって意味が分からないんだけど」


 そもそもの話。

 この人がここにいる意味がまったく分からないのだ。


 俺達の事情を知っていることも、しほと胡桃沢さんの様子を伺っていたのも、意味不明である。


「いきなり出てきたかと思ったら、意味深なこととか、匂わせるようなことばっかり言って……何がしたいのか分からないな」


 困惑していることを正直に伝えたら、メアリーさんは陽気に笑った。

 もちろん、その笑顔はいつも通りの作り笑いである。


「おいおい、これくらい許してくれよっ。今回におけるワタシはただの端役なんだから、登場した時くらい出しゃばらせてほしいねぇ」


「……端役?」


「そう、端役さ。序盤に張った伏線を回収するだけの、単純な役割だね……自分で言うのもなんだけれど、ワタシは結構『使い勝手』がいい。俯瞰的にストーリーが見えるし、それでいてコウタロウよりやれることが多いんだ。欠点といえば『傲慢』なことくらいで、能力的に考えると完璧に近いからねぇ」


 メタ的なセリフ回しに、顔をしかめそうになる。

 確かに俺よりもこの人は有能だ。


 だとしたら、いったいどういう役割を持って、物語に介入してきたのか。


「ワタシにはたくさんの属性がある。金髪碧眼の美女であり、巨乳のお色気要員であり、明るい陽気キャラであり、文武両道に優れた完璧超人であり、腹黒い二面性を持っていて、物語中毒の狂人でもある。色々と濃い属性がある中で……だけど今回は『お金持ち』というキャラが使われたみたいだよ?」


「――お金持ち」


 そういえばメアリーさんの両親はかなりの資産家らしい。

 つまり彼女は、金銭的な問題を解決するには、うってつけの『お嬢様キャラ』でもあるわけだ。


「にひひっ♪ お金に関する問題はなんでも解決できるよ? たとえば、そうだねぇ……コウタロウの両親が経営している会社を助けることくらい、とても容易いことなんだ」


 どうやら俺を縛っていた因縁を、彼女は解決してくれるみたいだ。


「クルミザワに頼らなくても、大丈夫♪ ワタシがぜーんぶ、コウタロウの都合がいいように、解決してあげるから」


 ……ああ、そうだ。

 メアリーさんは本当に、厄介で困ったキャラクターだった。


 敵にすると嫌で嫌で仕方ないくらい、難儀だったけれど。


「ワタシというチートキャラは、こういう時に役に立つねぇ」


 しかし、多くの敵キャラが味方になったら頼もしいように……メアリーさんも、心強い存在になったみたいだーー

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