第百四話 一方、その頃のハーレム主人公様のご様子
――くそっ。
見た。見てしまった。見たくなかったのに、見えてしまった。
(しほ……カーテンくらい、ちゃんと閉めとけよっ)
いつもはちゃんと閉まっているのに。見たくても、彼女の顔は見れないのに……今日に限って、ほんの少しだけ開いていた。
薄く開いたその隙間から、わずかにしほの部屋が見える。
そこには、俺が大嫌いなやつがいた。しかもそいつは……しほの頭を撫でていた。
(なんでお前がっ……! 何も持っていないくせに、俺よりも格下のくせに……なんでしほに選ばれたのがお前なんだよっ。中山!!)
中山の顔は見えない。でも、しほが幸せそうな顔をしているのは、しっかりと見えた。
あんな顔、俺には向けてくれなかった。あんなにかわいい笑顔を浮かべることなんて、知らなかった。
(どうして俺が、そこにいない……? どうしてそこに、中山がいる? 分かんねぇよ……俺はそんなに、人間として劣ってるのか???)
ダメだ。イライラが止まらない。でも、しほの部屋から目が離せない。
二人は何を話している? おい、中山……お前、どんなことを言ってしほをたぶらかしてるんだ?
気になる。気にしたくないのに、気になって気になって仕方がない。
だからついつい見てしまう。そのせいで俺は――しほが中山を押し倒した瞬間を、目撃してしまった。
「――――」
言葉が、出なかった。
何も言えなくなって、不意に崩れ落ちそうになった。
(幼馴染は、俺なのに……)
こんなに住んでいる家が近いのに……部屋だって、やろうと思えばいつでも往来できるくらいに、近いのにっ。
同じ病院で生まれて、同じ保育園で育って、同じ幼稚園に通い、同じ小学校で学び、同じ中学校で過ごし、同じ高校に入学したのに!
(なんで、俺じゃなかったんだ……)
まだ、初恋の傷は癒えていない。
俺はずっと、しほの面影を追いかけている。
あの子に認められたい。
しほを奪った中山を見返してやりたい。
じゃないと……もう俺は、立ち上がれそうになかった。
そのまま崩れ落ちてしまおうか。幼馴染を奪われた負け犬として、今後は二度と恋愛もできなくなってしまうのだろうか……たった一人の女に振られただけなのに、こんなに引きずるなんて思わなかった。
悔しい。ただただ、悔しくて仕方ない。
だけど、どうしていいか分からなくて……そのまま何もかもを諦めようとした――その瞬間だった。
「リョウマ♪ ごはんできたよー! なんと今日はピザとコーラでーす! 料理なんてできなくても、お金があればなんでもできるー!」
メアリーが部屋に来てくれた。
そういえば彼女は『夜ご飯を用意するから部屋で待ってて』なんて言っていたっけ……しほの部屋を見ていたせいで、そんなことすっかりと忘れていた。
「リョウマ? どうしたの? 暗い顔してるよー?」
「……なんでもねぇよ」
「そう? じゃあ、なんでもないってことでー!」
メアリーは笑う。
いつもと同じように、明るい笑顔を浮かべながら俺の肩を叩く。
「リョウマ? ワタシは何があっても味方だよ? 辛いことがあったら、そばにいてあげる。リョウマが元気になるまでずっと付き合ってあげる。だから……あんまり、ムリしちゃダメだよっ?」
……もしかしたらメアリーは、俺の心境の変化を察しているのかもしれない。
だけどあえて何も言わずに、そばにいてくれる。余計なことをせずに、寄り添ってくれる。
おかげで、俺はどうにか崩れ落ちずにすんだ。
もう、幼馴染はいなくなってしまったけれど……その代わりに、メアリーがいる。しほと同じくらいかわいいし、しほよりも何でもできて、家柄にも恵まれている女の子が、こんなにも俺のことを思ってくれている。
それはもしかしたら――中山よりも、幸せなことかもしれないから。
「ありがとう。メアリーのおかげで、なんか元気が出たっ」
恋愛には、あまり敏感ではないほうだが。
だけど、メアリーの気持ちは……さすがの俺でも、分かる。
彼女がなんとなく俺を好きでいてくれているのは、理解している。
だったら、もうそれでいいんだ。
しほじゃなくても、メアリーが隣にいてくれるのなら、それでいい。
だったら……俺もそろそろ、覚悟を決める頃だろう。
(よしっ……文化祭が終わったら、告白するっ)
メアリーを彼女にする。
それで俺はようやく……やっと、中山に劣等感を抱かずに済むだろう。
その日が来るのが、待ち遠しかった――
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