第八十七話 英雄色を好む
そうして、メアリー・パーカーは暗躍する。クリエイターを自称する彼女は、望む物語を作るために色々と準備を進めていた。
リムジンで俺と話してから、一週間が経過している。
この頃にはもう、彼女は竜崎に一番近いヒロインという立場をしっかりと獲得していた。
「グッモーニン、リョウマ! おはようのハグしてあげるよー!」
「ちょっ、おい……当たってるって」
「当ててるのよ~」
朝、彼女は登校するとすぐに竜崎とイチャイチャを始める。自分の恵まれた体を活かして、色気を振りまいていた。
「うへへ……まぁ、いいんだけどな。やれやれ、これは欧米風のあいさつだから、仕方ないんだっ。うん、俺は不可抗力だよな!」
「キャー♪ リョウマのエッチ~」
自分を名役者というだけあって、彼女はなかなかの演技をしている。
露骨に胸を押し当てて主人公様をデレデレさせていた。よくあるサービスシーンだが、肉付きのいい彼女がやると、それもまた強烈な効果をもたらす。
恐らく、胸の大きさで言えば結月以上かもしれない。そんなメアリーさんの色気に、竜崎は鼻の下を伸ばしていた。
……あれ、何がいいんだろう?
モブキャラにはよく分からないなぁ。そもそも、他人に欲情したことがないので、もしかしたら俺は生物としての何かが欠けているのだろうか。
なんとなく不安になる。朝、自分の席から竜崎のラブコメをぼんやりと眺めながら、性癖について考えてみた。
女性がかわいいか、かわいくないか、それは分かるけど……エロいか、エロくないかとそれはまた別問題なのだろう。
頭の中で、思考を巡らせてみる。
メアリーさんとか結月の胸には、興奮しない。かといって、比較的小さめの梓の胸を想像しても、大して何も思わない。じゃあ、中間くらいのキラリの胸を考えてみると、やっぱり何も思わない。
大きさの問題ではないのだろうか。
たとえば、じゃあ……しほの胸、とかは?
「…………っ~!?」
想像しようとする。しかし、不意に頭が熱くなって、それ以上のことを考えられなくなった。
あ、ダメだ。たぶんこれ以上想像が膨らんだら脳みそが爆発する気がした。
まぁ、つまりはこういうことなのだろう。
俺にとってしほは、本当に特別な存在なのかもしれない――ということだ。
(なるほど。竜崎は、俺がしほに対して思うような感情を、全ての女の子に抱けると言うことか)
主人公様はなかなかに欲深いらしい。
まぁ、『英雄色を好む』という言葉もあるし、ある意味では主人公の宿命に近いのかもしれない。
とはいえ、それでもたった一週間という短い期間で、竜崎に急接近したメアリーさんは、やっぱり名役者と言わざるを得ないだろう。
だって彼女は、ハーレムメンバーの中でも比較的優位な立ち位置にいる結月とキラリを越えている。
入学式に出会い、それ以来ずっと竜崎の隣にいた二人を、たった一週間で抜いたのだ。今ではすっかり正ヒロインの有力候補である。
前回で言うところの、しほの立ち位置に近い場所にいる。
まずは彼女のプロット通り、といったところだろうか。
「HAHAHA! リョウマ、チューしてあげよっか? これも挨拶だから、遠慮しなくていいんだよっ?」
「そ、それはちょっと……でも、ありがとうな。そうやって仲良くしてくれて、めちゃくちゃ嬉しいよ」
「……べ、別に、リョウマのことを好きなわけじゃないんだからねっ!」
――それにしても、竜崎は元気になったなぁ。
宿泊学習の一件以来、あんなに落ち込んでいたのに。
結月やキラリ、それから他のハーレムメンバーがいくら励ましても、あいつはふさぎ込んだままだった
それが、メアリーさんのおかげで、今ではすっかり元通りだ。
(もしかしたら竜崎は、メアリーさんにしほを重ねているのか?)
性格も見た目もまるっきり違うけど。
存在感だけで言うと、近い方向性にいる。大きさはしほの方が圧倒的だが、メアリーさんにも特有の雰囲気がある。
そんなメアリーさんの人間離れした魅力に、竜崎はしほの面影を重ねているような気がした。
だから、竜崎も彼女に肯定されると嬉しいのだろう。本当はしほに言ってもらいたかったことや、やってもらいたかったことを、メアリーさんがやってくれているのだ。
(……えぐいなぁ)
だからこそ、それが演技だと知った時、竜崎はどんな顔をするのだろう?
もしかしたら、見るに堪えないような絶望感を味わうのかもしれない。
……まぁ、あいつのことは嫌いなので、同情はしないけど。
普通の主人公なら、このまま心が折れて再起不能になりそうである。
だからこそ、俺は興味がある。
はたして、竜崎の主人公としての格は、普通なのか……あるいは、異常なのか。
そして、メアリーさんの妄想するざまぁ系ラブコメを、壊すことができるのか。
そこは少し、気になっていた――
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