第八十六話 メインヒロインにあって、サブヒロインにないもの
「ごはんは本当に美味しかったよ。今度は梓も一緒に行こうな? しほのご両親もいい人だったから、あんまり人見知りしなくても大丈夫だよ」
「人見知りなんかしないもんっ。霜月さんじゃないんだから!」
負けじと言い返しているが、この子は外で猫を被る傾向がある。
もちろん、しほ程ではないけれど、人見知りに分類されると思うのだが。
――カシャッ。
え、今のはなんだ?
なんか、シャッターを切る音が聞こえた気がする。
「梓、何かやったか?」
気になって問いかけると、彼女はスマホをいじりながら答えてくれた。
「料理の写真の返礼におにーちゃんの写真を要望されたから、撮ってた」
「……俺の許可は?」
「え? 要るの?」
いや、別に言ってくれれば断らないんだけど……なんだか釈然としない。
「はぁ。おにーちゃんの写真がどんどんフォルダにたまっていく……霜月さん、なんでこんなにおにーちゃんが好きなの? 毎日せがまれて、ちょっとうざい」
「ま、毎日撮ってたのか……」
そして毎日メッセージをやり取りしていたのかと、そこにも驚く。
やっぱり二人は仲良しだった。
「だって、あの人すぐ拗ねるもんっ。梓が既読無視なんてしたら長文のメッセージが送られてくるんだよ? しかも『両親以外で初めて他の人の連絡先を登録したのが嬉しいのに、無視なんてしないでっ』とか言ってくるの……愛が重すぎて梓には背負えないよっ」
そんな二人のやり取りに、俺は思わず頬を緩めてしまった。
さっきまでのメアリーさんとの薄汚いやり取りが、どんどん浄化されていく。
しほはこの場にいなくても、俺を笑顔にしてくれる。
それが――メインヒロインにあって、サブヒロインにないものかもしれない。
場にいようと、いなくても、圧倒的な存在感がある。
何もしなくても、他人の心に影響を与える。
メアリーさんみたいに、薄っぺらい言葉では他人を変えることなんてできない。
でも、しほにはそれができる。
あの子はだって『特別』なんだから。
「……おにーちゃんも、そろそろスマホ買ったら? おにーちゃんのお友達なんだから、おにーちゃんがちゃんと面倒見てよっ」
「スマホ、かぁ……うーん、どうしよう?」
今まで連絡を取るような相手がいなかったから、持っていなかったけど。
しほにも『早く買って』と言われているし、そろそろ用意した方がいいかもしれいない。
「どうせ、これからもたくさん使うことにになるんだから、早く買った方がいいよっ……はぁ。梓、これからもずっと霜月さんにかまってあげないといけないのかなぁ」
とか言って、なんだかんだ満更でもないくせに、素直じゃないなぁ。
でもまぁ、うん。これからもたくさん使うというのは、納得できた。
だって、これからもどんどん、しほと仲良くなるだろうから。
「ねぇ、おにーちゃん? 本当に、霜月さんっておねーちゃんになるの? 梓、できれば、もうちょっと大人のおねーさんがいいなぁ」
……それは、どうだろうか。
ずっと先のことなんて、まだ考えられるほど大人じゃないけれど。
もし、仮に……俺としほが、永遠に結ばれるようなことになったとしたら。
その時はもしかしたら、彼女が梓にとっての本当の『おねーちゃん』になるのかもしれない――
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