第七十九話 新ヒロインの本性
リムジンに乗ったのは初めてだった。L字型の座席とテーブルが置かれたこの空間が車内であることに違和感を覚えてしまう。
……なんだか落ち着かないなぁ。生まれつきの庶民には居心地が悪かった。
「コウタロウはどうしてあんなところにいたの? アナタの家、この辺にないでしょ?」
車がゆっくりと走り出す。
メアリーさんは、俺のそばに身を寄せて話しかけてきた。
こんなに広いのだから、わざわざ隣に座る必要はないと思うのだが……それに、あんまり他の女の子と仲良くしたら、かわいいあの子が嫉妬するので、俺はしっかりと距離を開けた。
だいたい二人分くらいの間隔を開けてから、彼女の質問に答える。
「しほ……友達の霜月しほの家に遊びに行ってたんだ。俺の家は確かにここから少し離れているけど……それをどうして知っている?」
今度はこちらか、質問を返す。
不可解だ。今まで、俺のことなんて見えていないような素振りを見せていたメアリーさんが、名前どころではなく住所まで特定している。それが不気味だった。
「ワタシは知識欲が旺盛だから、と言ったら?」
「答えになっていない、と返答するけど」
「察しが悪いよ? つまり、知らないことがあるのは不快だから、なんでも知る努力をしてるってことなのに……ほら、ワタシの両親はお金があることだけが取り柄の人間だから、娘のワタシはそれを利用して、色々なことができるんだよ」
億劫そうに、それでいて迂遠な言い回しで、彼女はひねくれた回答をする。
「つまり……俺みたいな地味な人間の個人情報も把握している、ってことでいいか? 口には出しにくい金に任せた汚い方法で調べた……と、解釈していいんだな?」
「さぁ? ワタシはそこまで言ってないけれど、そう思いたければ、否定はしないよ? とりあえず、過程はともかく結果は同じだし。ワタシはコウタロウのことを、アナタが思っている以上に知っているのかもしれないね?」
そう言って、メアリーさんは足を組んだ。
学校の制服そのままだが、短いスカートの丈からムッチリした太ももが覗いている。竜崎であれば鼻の下を伸ばすだろう光景だが、性欲の薄い俺にとってはどうでもいいことだ。
と、すぐに俺は太ももから視線を外した。
それを見て、メアリーさんは何やら頷いていた。
「へぇ……コウタロウは、女の子の体に興味はないのかな? 普通の男の子なら、ワタシと二人きりになれて、もう少しデレデレするはずだけどなぁ」
「……それは知らなかったのか? 俺のことは、俺が思う以上に知っているんだろ?」
「ああ、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。だから、コウタロウに色仕掛けが通じないということは、今知ったことにしておくよ?」
なんだ……さっきから、煙に巻くような言葉選びばかりしている。
学校ではもっと明るくて無邪気な、いかにも陽気な外国の人っぽいキャラクターなのに、今の彼女はよく分からなかった。
こっちが、本当のメアリーさんなのか?
竜崎の前で演じている、あの明るすぎてうるさいほどのテンションが高いキャラクターは、嘘なのか?
「にひひっ。驚いてるねぇ……いや、戸惑っているのかな? コウタロウは、ワタシのことを勘違いしていたのかな? どんな人間だと思っていたのかな? まぁ、正解はまだ教えてあげないけれど、ヒントはあげよう。ワタシは、コウタロウが思っているよりも、ワタシじゃないよ」
つまり、俺が思っているメアリーさんは、本当のメアリーさんじゃないということになるのだろうか――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます