第六十七話 『おねーちゃん』って呼びなさい?
「ただいまー」
帰宅して靴を脱ぐ。
「おかえりなさいっ」
すると、しほがニコニコしながら出迎えてくれた。
……え? もしかして俺、帰ってくる家を間違えた???
「うふふっ。ドッキリ大成功~! 学校にはお寝坊さんな私だけど、幸太郎くんと遊ぶときは五分前行動しちゃうなんて、とっても健気だわっ。ほら、幸太郎くん? もっと好きになってもいいのよっ」
「……五分前じゃなくて、二時間前に来てたくせにっ。おにーちゃん、この人邪魔だよっ。梓のおやつ勝手に食べたっ」
……いや、冷静になって考えると、ここはやっぱり俺の家である。
その証拠に、梓がいた。しほに恨みがあるようで、彼女の背中をポカポカ叩いている。
ああ、なるほど。そういうことか。
寝坊して学校に行くことを諦めたしほだが、俺の家にはきちんと来たらしい。
しかも早い時間に到着したので、仕方なく家に残っていた梓が構ってあげてたみたいだ。
「あずにゃん、私はね……あなたのことを考えて、おやつを食べてあげたのよ? だって、おかしばっかり食べたら太っちゃうわっ。仕方ないから、私があずにゃんの代わりにカロリーを摂取してあげたのに、ありがとうも言えないのかしら?」
「太ってもいいもんっ。おかしを食べないとやってられないんだからっ……って、梓のことを『あずにゃん』って呼ぶのやめてっ」
「嫌よ? だって、私が大好きなアニメのキャラクターと同じ名前だもの。その子もあずにゃんって呼ばれてたから、あずにゃんでいいじゃない? 名誉なのに、どうして怒ってるのかしら?」
「うぅ……おにーちゃん、この人なんとかしてっ。おにーちゃんのお友達なんでしょ!? ちゃんと面倒見てよっ」
……それにしても二人は仲良くなったなぁ。
夏休みの間、しほはずっと俺の家に入り浸っていた。そして梓も竜崎との一件があって以来、ずっと家にいたので、自然と二人は顔を合わせる機会が増えた。その結果、しほが人見知りしなくなり、梓に懐いたのだ。
まぁ、梓の方は少しめんどくさそうなのだが、なんだかんだ同年代の二人は、結構馬が合うらしい。しほも初めての同性の友人ができたことをとても喜んでいるようで、しつこいくらいに絡んでいる。
「霜月さん、もうちょっと遠慮というものを覚えた方がいいと思うよっ。ここはおにーちゃんのおうちでもあるけど、梓のおうちでもあるんだよ? だから、もっと家主を敬って! 梓にもっと気を遣って!」
「あずにゃん? もう、そんな呼び方したらダメって言ってるじゃない。寂しいわ……私のことは気軽に『おねーちゃん』って呼びなさい? 義理の妹になるかもしれないんだから、今から練習しておかないとだめよ?」
「おねーちゃんなんて気軽に呼べるわけないよっ。そもそも同級生だし、誕生日も梓の方が早いんだから、むしろおねーちゃんはこっちだもんっ!」
仲良くおしゃべりしているところ悪いんだけど、そろそろ靴を脱がせてくれないかなぁ。
二人が玄関を遮っているせいで、俺は家に上がることもできずにいた。
「うふふっ。でも、あずにゃんは妹キャラでしょう? だったら私がおねーちゃんでいいと思うわっ……あ、それと、あんまり幸太郎くんに甘えないように気を付けてね? 彼は私だけのものだから、妹でも気軽に接するのは禁止でーす」
「めんどくさっ。おにーちゃん、この人とってもめんどくさいよ!? ヤンデレの気配もするし、あんまりこの人と仲良くなったらダメな気がする!」
……ごめん、梓。もう遅い。
たぶん、俺はもうしほから離れられない。というか、しほが俺を離してくれないような気がする。
別に、まだ付き合っているわけでもないし、今のところ仲のいい友人という関係に落ち着いているが……それでも、しほの束縛はすごい。俺がコンビニの女性店員から小銭を受け取っただけで機嫌を悪くするくらいなのだから。
「むむっ。そうやってすぐに幸太郎くんに頼るなんて、卑怯だわっ。妹という立場を最大限に利用するなんてずるい……でも、うーん、私の妹でもあるわけだから……まぁ、それくらいなら、許してあげても、いいのかなぁ?」
「べ、別に梓はおにーちゃんに頼ってなんかないよっ? 今も、ちょっと不満を言っただけで、別に仲がいいとか、そういうことはないんだからねっ」
「ツンデレ!? 幸太郎くん、あなたの妹ちゃんはツンデレ属性も持っているのかしらっ。こんなの、かわいいの化身じゃないっ……分かったわ。私の負けよ。少しだけなら、幸太郎くんに甘えるのを許可するわ……まったく、私の心はなんて広いのかしら? これはまた、幸太郎くんの好感度が上がっちゃったかしら?」
いいや、狭いぞ。
しほ……君の心は、たぶん茶碗より狭い。
だって、梓と俺は兄妹なのに、普通の会話すら渋い顔をするのだ。
この子は相変わらず、愛が重たい。
でも、まぁ……そういうところもかわいいと思ってしまうあたり、俺もそろそろダメかもしれない――
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