第三十六話 ただの幼馴染で満足するのは終わりだ
「中山、ちょっといいか? お前をグループに入れたいから、少し話そう」
自分の席にいる竜崎が俺を手招く。
まさかグループに誘われるとは思っていなかったのでびっくりした。
正直、断りたいけど、そうしてしまうと不信感を持たれてしまう。
モブキャラが主人公様のご意向に逆らうなんて、あってはならない。
反逆した途端に、竜崎は俺のことをより強く意識するだろう……それは都合が悪かった。
仕方ない、大人しく言うことを聞こう。
「分かった」
席を立って、竜崎の席がある教室の中央へと向かう。
「むぅ……」
霜月が俺の方を見て不満そうにほっぺたを膨らませていたのが気になるけど、仕方ない。彼女とは先日、一緒のグループになりたいと言われている。できるだけその願いは叶えたいけど、はたしてどうなることやら。
宿泊学習では男女それぞれ四人組を作り、合計八人のグループで活動することになっていた。
俺はモブキャラなので友人が霜月しかいない。だから他にグループを組めるような人はいなかった。
そういうわけなので、竜崎からの誘いは本来であればありがたいはずである。
ただ、俺はこいつが嫌いだ。
一緒のグループになんてなりなくないのだが……真向から主人公様に歯向かえるような立場ではないので、返答が難しい。
理想は、俺と霜月が一緒で、竜崎龍馬御一行が別のグループにいることなのだが……それをするには、俺と霜月の対人スキルが足りていなかったみたいだ。
「他のグループはほとんど決まってるみたいだしな。お前、余ってるだろ? 俺たちのグループもあと一人必要だから、来いよ」
表向きはそう言っているが、何か裏があるような気がして仕方ない。
そうでないと、竜崎が俺を誘う理由がないのだ。きっと、何かしら考えがあって、俺をグループに招こうとしている。
竜崎の思い通りにはなりたくないのだが……いや、ダメだ。断る理由がない。主人公様のお言葉に逆らうことはできないみたいだ……モブキャラはこういう運命なのだろう。
ごめん、霜月。
お前の理想を叶えることは難しそうだ。
でも、最悪を回避できる可能性はまだある。
最低限、霜月が竜崎と同じグループにならなければいい。
あの子が嫌な思いをしなければ、俺のことはどうなっても構わないのだが……さて、どうしよう?
「何を迷ってるんだ? ……ああ、そうか。しほがいないと嫌なのか?」
竜崎には『俺が霜月を好きだ』と勘違いさせている。
それを利用して、うまくはぐらかせないかと思考を巡らせた。
「それは、そうだけどさ……でも、霜月さんがライバルのお前と一緒っていうのも嫌だなぁ。うーん、そうだ! 平等に霜月さんは別のグループにしようっ。今回は異性のことを気にせず、男同士の友情を育まないか?」
相変らずの能天気なモブキャラを演じて、どうにか霜月を竜崎の魔の手から遠ざけようと試みる。
だが、それは無理だった。
「いいや、今回はしほも一緒のグループに誘う。というか、梓たちにお願いして、誘ってもらってるところだ」
ニヤリと、不敵な笑みを浮かべられる。
ハッとして後ろを振り向くと、いつの間にか梓たちが霜月に話しかけていた。
「別に男と仲良くなっても仕方ないだろ? それにお前は、俺のライバルだからなぁ……正々堂々、勝負しようぜ? どうもお前は不審な動きが多いからな。そろそろ、俺もただの幼馴染で満足するのは終わりだ」
その宣言に、背筋が寒くなる。
俺が何て言っても、もう物語は止まらない。モブキャラにはストーリーを遮るだけでの力がない。
だから、あとの希望は霜月がお誘いを断ることだけ、だったのだが。
「龍馬おにーちゃん、霜月さんの許可ももらったよ~」
戻ってきた梓の報告に、思わずうなだれそうになった。
なんと霜月は、竜崎がいるというのにお誘いを受け入れたみたいだ。
もう、止まらない。
物語は、加速していく――
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