第二十八話 主人公様は豪語する
席替え当日。
入念な打ち合わせを終えた俺たちは、万全の準備をしてこの日を迎えた。
朝、生徒たちは席替えということで賑わっている……わけではないか。だいたいのクラスメイトは大して興味がなさそうである。
席替えで興奮するのは小学生か、ギリギリ中学生までか。
高校生にもなったら、席がどこだろうと気にしなくなる。いや、本当は近くの異性を気にするだろうけど、それを表に出せるほど素直な年齢ではない。
なので、朝の教室はいつも通り静かなのだが……あいつらがやってきてからは、一気に騒々しくなった。
「龍馬おにーちゃん、今日は席替えの日だよっ? また、近くの席になれたらいいね!」
「はぁ……わたくし、昨日は胃が痛くて眠れませんでした。どうか、龍馬さんの近くに行けますようにっ」
「……龍馬、もしアタシが離れても、忘れないでね?」
竜崎龍馬御一行は、教室に到着するや否や席替えについて騒いでいた。
義妹の梓、幼馴染の結月、元親友のキラリが心配そうな顔をしている。現在、彼女たち三人は、竜崎ハーレムの中でも有利なポジションにいるのだ。その優位性を維持したいのだろう。
同じクラスで、席も近くて、親密な関係を築けている……だから今は、他のハーレムメンバーより一歩前にいられるけど、少しでもその優位性を失ってパワーバランスが崩れたら、たちまちに序列の順位が下がる。
油断するとすぐに他のヒロインがその座を奪うのだ。席替え一つとはいえ気が気ではないだろう。
まぁ、当の竜崎は鈍感なのでそんなことに気付いていないのだが。
「やれやれ、落ち着けよ。たかが席替えであんまり騒ぐなって」
いつも通りやれやれと苦笑して、仕方ないなぁという顔をする。
女の子たちの思いなんてまったく気にしない。主人公様は席にこだわりなどないのだろう……どうせ、どの席にいっても近くにヒロインがいるような状況なのだ。それも当然である。
俺が所属するこの一年二組は、ほとんどの女子が竜崎に汚染されている。
どの女の子も多少なりともあいつに気があって、隙あらば仲良くなろうと虎視眈々と機会をうかがっている。
女には困らないからこそ、ハーレムメンバーに何て言われても『やれやれ』なんてむかつくセリフを言えるのだろう。
ただ……そんな竜崎にも、一人だけ特別な女の子がいる。
その子はまだ学校には来てなかった。彼女の席は竜崎のすぐ後ろで、あいつにとっては幼馴染という関係にあたる。
名前は、霜月しほ。
透明感のある白銀の髪の毛が印象的な女の子だ。
「まぁ、席は変わっても……俺がしほと一緒なのは変わらない。幼馴染だからな、俺達には縁があるんだ。ずっとそばにいてあげて、守ってあげられれば、席はどこだっていい」
主人公様は豪語する。
幼馴染という立場に驕り、努力せずとも望む結果が得られることに疑いはないようだ。
そう言われた他の女の子の気持ちなんて考えずに、ただただ自分だけが満足する発言ばかり行う。
相変らずの主人公様っぷりだ。
「「「…………」」」
三人の女の子は、その言葉を聞いて少しだけ悲しそうな表情を浮かべている。竜崎が霜月に固執するのは今更の話ではないが、やっぱり傷ついているんだろうなぁ。
ただ、一人だけ……義妹の梓だけは、立ち直りが早かった。
「…………ん?」
彼女たちの様子をぼんやり眺めていたら、不意に梓がこっちを見る。俺を見て、それから小さく笑った。
一週間前、家で霜月と遭遇して以来……梓は少し、強くなった気がする。
ヒロインとしての格が上がったような、そんな印象を受けていた。
今も、気丈な笑顔を浮かべている。
「え~? 酷いよ、竜崎おにーちゃんは梓と離れてもいいのっ? どこでもいいとか言ったら悲しいのに……ぐすぐす」
泣きまねして、椅子に座っている竜崎の後ろから梓は抱き着いた。
「お、おい、重いって……分かった、謝るから。酷いこと言ってごめん、俺も梓や他のみんなと一緒になりたいよっ」
このタイミングでさえ利用して、上手に甘えている。
……相変わらず、脳が壊れそうになる光景だけど。
まぁ、うん。がんばれ、と心の中で応援しておいた。
いいぞ、梓。こういう機会を利用して、竜崎の評価を上げるんだ。
この後に、大きなチャンスもあるから……絶対に見逃すなよ?
幼馴染という腐れ縁を、不正という力技で切り離すそのとき、きっと竜崎は大きなショックを受ける。
その傷心に付け込めば、きっと梓は他のヒロインよりも一歩リードできるはずだから――
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