第二十五話 主人公様の承認欲求を満たすためだけの存在

 ――はたして、報われない恋を続けることは美談になるのだろうか。


 梓を見ていると、そんなことを考えてしまう。

 いや、梓だけじゃない。幼馴染の結月も、元親友のキラリもそうだ。彼女たちを見ていると、痛々しくて胸が苦しくなる。


 あんなに分かりやすく『好き』という思いを伝えているのに、当の本人は『鈍感』を免罪符にまったくそれに気付かず、いつも気持ちは空回りしてばかり。


 愛情を踏みにじられ、努力が結果を生み出すこともなく、それでも一途に思い続けるなんて……本当に、可哀想だ。


 まるで、主人公様の承認欲求を満たすためだけに、存在しているような。

 つい、そんなことを思ってしまうのだ。


「……そういえば今日、校舎裏で告白しようとしてたな。タイミングが悪かったみたいだけど」


 今日、唐突に梓が家に帰ってきた理由に、一つだけ思い当たることがある。お昼休みに俺が霜月と弁当を食べている時のことだ……梓は竜崎を校舎裏に呼び出していた。


 そしてあの時、梓は告白しようとしていた……と、俺は予想している。


「うん……梓ね、勇気を出して、思いを伝えようとしてたの……でも、うまくいかなかったや」


 もう強がる気力もないみたいだ。

 悲しい表情で愛想笑いを浮かべていた。


 あの時、結局梓は告白ができなかった……タイミング悪く、俺達と遭遇してしまったからだ。

 しかも不幸なことに、遭遇したのは竜崎が最も執着している霜月だった。だから梓の勇気は踏みにじられ、後回しにされた。


 そのことで彼女は酷く落ち込んでいるように見えた。


「あ、もしかしてあのときにおにーちゃんと一緒にいたのって、霜月さんだったの? ……ドキドキして死にそうだったから、分からなかったや」


 今更になって、霜月があの場にいたことも思い出したみたいだ。

 それくらい彼女は緊張していたみたいである。


「龍馬おにーちゃん、霜月さんのことになると他のことが見えなくなるからなぁ……あはは、やっぱり勝てないや」


「……あはは、じゃないだろ」


 思わず、悪態をついてしまう。

 愛想笑いで誤魔化して、現実を直視しない妹がとても痛々しくて、怒鳴りそうになった。


 報われない恋に価値なんてない。

 梓の恋は失恋にすらなってないぞ? 思いに気付かれてすらいないし、踏みにじられてばっかりだ。

 こんなの美談でもなんでもない。ただただ、痛々しいだけだ。


「……え? な、なんて言ったの? 声が小さくて、聞こえなかった」


 聞こえなかったと、意思表示する梓。

 でも、その顔はやけに悲しそうで……見ていられなかった。


『自分でも分かってるから、何も言わないで』


 言葉には出していないけど、そう言っている気がする。

 俺が言わずとも、彼女も分かっている。愛想笑いで済ませていい問題ではないと理解しているうえで、梓はなおも誤魔化しているのだ。


 だから聞こえないふりをする。

 俺の言葉を受け流して、情けない自分を必死に隠そうとする。


「…………っ」


 ああ、ダメだ。

 そんな顔をされては、やっぱり何も言えない。


 俺はもう説教なんてできる立場にいない。

 梓の人生に干渉できるほどの距離にいる人間ではないからだ。


 これは、梓が選んだ道である。

 不幸になろうと、いくら傷つこうと、全て彼女が望んでいることなのだから、何も言えなかった。


「なんでもないよ」


 だから、はぐらかした。

 モブキャラらしく、感情のない人形として淡々と言葉を返す。


 俺には……モブキャラには、そんなことしかできないのだから――

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