第二十二話 やきもちを妬きすぎて餅になっちゃうわっ

 霜月の話が止まらない。


「中山君、家にご両親がいないのはとても寂しくない? 私だったらパパとママがいない生活なんて耐えられないわ。それなのに中山君は一人で我慢できて偉いのね。同級生なのに尊敬しちゃうわ」


 場所をリビングに移して、彼女にお茶とお菓子を差し出した。

 しかし、ソファに座っている霜月は、お茶やお菓子なんて見向きもせずに俺にずっと話し続けている。


「でも、やっぱり中山君は寂しいと思うの。だから私がたまにここに来てあげてもいいわ。うふふ、いいでしょう? ねぇ、ゲームとか持って来てもいいわよねっ。お願い、中山君っ。私をこの家で遊ばせてっ」


 なんだかんだ言ってるけど、彼女はとにかく友達とゲームがしたいだけに見えた。


「私、中山君の趣味の先生だもの。きちんと言うこと聞けるかしら? べ、別に他意はないのよ? ただ、我が家のゲーム時間は一時間って決まってるから、夜こっそりと布団にもぐってゲームしてる生活がきついわけじゃないからねっ?」


 そんな小学生みたいなことを高校生になってもやってる子がいたことにびっくりだ。


 話を聞いている感じ、霜月のご両親は本当に娘を愛しているが……ちょっと、過保護な感じがする。門限も18時らしいし、ゲームは一時間しかやったらダメみたいだ。


 まぁ、うちみたいに育児放棄気味な家庭よりは、全然マシか。


 父も母も親としての仕事は最低限やってくれるし、別に子供が大切じゃないというわけではないと思うが、愛情の度合いで言ったら他の親と比較すると少し低い気がする。


 今も子供を置いて海外に旅行してるくらいだ。

 愛されないよりは、やっぱり愛されていた方がいい。霜月も両親のことは大好きみたいだけど……とはいえ、少しは気分転換も必要だと思う。


 そのためにこの家を使ってもらうのは、悪くないと思った。

 俺が霜月にできる、せめてもの恩返しにもなるだろう。


「どうぞ、自由に使ってくれ。何もない家だけどな」


 頷くと、霜月はパーッと表情を明るくした。

 こんなに嬉しそうな顔をされたら、こっちが照れてしまう。


「何もない? いいえ、この家には中山君があるものっ。それだけでとても満足よ? うふふ、やったぁ……据え置き型のゲームってどうしてもモニターに繋がないといけないから、布団の中でできないのよね? 明日持ってこようかしら?」


 俺がある、か……こんなに俺のことを特別だと認知するなんて、やっぱり不思議な子だなぁ。


 と、そんな会話を続けている時だった。


「……ん? あれ? んんっ???」


 不意に、霜月がピクピクと耳を動かした。

 それから急に不機嫌そうな顔になって、俺にジトっとした視線を向ける。


「中山君って……結構、女の子をひっかけるタイプだったのねっ」


 珍しく一行で区切られた言葉は、意味不明なもので。

 最初、何を言っているか分からなくて混乱していた時……玄関を開ける音が響いた。


「ただいま」


 小さな声が、家に響く。

 どうやら義妹の梓が帰って来たみたいだ。


 珍しいな……今日は竜崎の家に行かなかったのか。


 そしてその声を聞いて、霜月は少し泣きそうな顔になっていた。


「酷いわっ。お友達の私を差し置いて、おうちに女の子を連れ込んでいるなんて……これが『浮気』ってやつね? な、中山君のエッチ! 私という存在がありながら、他の女の子に手を出すなんて、おバカさんだわっ」


 それから、今の発言を聞いて、ようやく霜月が不機嫌になった理由を悟った。

 彼女は耳がいいから、外にいる梓の足音を聞いたのだろう。そしておそらく、女の子がこの家に来ることを察知した。それから、独占欲がちょっと強い霜月は、嫉妬の炎を燃やした……ということだろう。


 つまり、これは……


「や、やきもち?」


 恐る恐る、聞いてみる。

 すると彼女は、分かりやすくほっぺたをぷっくりと膨らませた。

 まるで餅みたいなほっぺたである。


「そうよっ。私、やきもちを妬いているの。やきもちを妬きすぎて、餅になりそうだわっ」


 そんなこと言われても……ちょっと困る。

 だって、今この家に帰ってきたのは、家族なのだ。


 血は繋がっていないけど、義理の妹なのだから、異性としてカウントするのはちょっと勘弁してほしかった――

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