第十八話 無口な彼女はヤンデレ風味
竜崎龍馬の物語、なんていうくだらないことを考えていたらいつの間にか学校が終わっていた。
あまり授業内容が頭に入らなかったけど、それは別にいつも通りなのでなんとも思わない。勉強なんてテスト前に徹夜で詰め込めばなんとかなる。おかげで平均点より少し下の成績という、いかにもモブキャラらしい何とも言えない結果が出ているが、だからといって自分は変えられない。
さて、放課後だ。
昨日、霜月と友達になったのも放課後だが……友達だからといって、別に学校が終わっても一緒にいる必要はないか。
それに、今は竜崎の目がある。
昼食の後、俺の発言に一応は安心したみたいだが、あいつは油断せずに俺の動向をチラチラ確認していた。
幸い、人見知りな霜月が話しかけてこなかったので、疑惑はたぶん晴れたと思うが……あまり彼女とべたべたしていると、霜月に迷惑がかかるかもしれない。
そう考えた俺は、さっさと帰ることにした。
本当は霜月に一言挨拶したかったが、竜崎がハーレムメンバーとイチャイチャして教室から出そうになかったので、仕方なく無言で出ていく。
友人関係なら、これくらいがちょうどいいだろう。
油断すると霜月はすぐに距離を詰めてくるが、だからといって俺が触れていいような存在ではない。思い上がらないように、モブキャラらしく大人しくしていないと。
そう自分に言い聞かせてから、帰路につく。
最寄りのバス停でバスに乗り込み、20分ほどで自宅近くに到着。そのままバスを降りて、また数分歩く。それでようやく家に辿り着いたので、カバンからカギを取り出そうと俯いた……その時だった。
「だーれだっ? ヒントはあなたの友人で、女の子よ? うふふ、分かるかしら? もっとヒントがほしい? 仕方ないわね、私の好きな食べ物はママの作った料理だわ。うん、これくらいヒントを出したら、分かるわよね?」
後ろから、小さな手が俺の目を覆う。
真っ暗になって一瞬だけ戸惑ったが、声を聞いてすぐにその人物が誰か分かったので安堵した。
「なんだ、霜月か……って、霜月!?」
しかし、安心したのもまた一瞬のことである。
すぐに俺は、この状況が異常なことに気付いた。
「せいかーい。私は霜月しほ、16歳の女の子よ。うふふ、こうやって『だーれだっ』ってやるの、夢だったの。私の『友達ができたらやりたいことリスト』でもトップ100に入っている項目だわ。夢が叶って良かった」
果たしてトップ100がランクとして上位と考えていいのだろうか。
もしかして『友達ができたらやりたいことリスト』に書かれている項目はかなり多いのだろうか……ということも気になったけど、それよりもまずは聞かないといけないことがあるだろう。
「なんでここにいるんだ……?」
この場所は、もちろん学校じゃない。
バスで20分、徒歩で約一時間かかる位置にある、俺の家だ。
そんなところに、学校でしか遭遇しないはずの固定キャラである霜月がいる理由が分からなかった。
どうしてここにいるのか。
その理由を聞いてみると、唐突に彼女の瞳から光が消えた。
白銀の髪とは対照的な黒い瞳は、全ての色を吸い込みそうなほどの闇を孕んでいる。
「え? だって、中山君は私のお友達なのに『さよなら』も言わないで帰るから……放課後にやりたいこともたくさんあったのに、一人で勝手に帰っちゃうからついてきたのよ? いつ私に気付くかなってすぐ後ろでワクワクしてたのに、結局声をかけるまで気付かないなんて、本当に中山君は私のお友達という自覚があるのかしら? 酷いわ、仕返しに中山君のおうちでくつろいでやるんだからねっ。断るなんて、させないわ」
……つい先日までは、感情のない人形みたいな女の子だと思っていたけど。
この子はかなり饒舌だし、感情豊かだった。
霜月……ごめん。友達にこんなことを思うのは申し訳ないんだけど……ちょっとだけ、重いなぁ。
無口な彼女は、少しだけヤンデレ風味のようである――
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