解決編
「カップ麺作った人って、やっぱ天才ですよね」
小さめの茶碗にうどんとつゆ、そして箸で半分にしたお揚げ。たまごと七味唐辛子。
居間のテーブルに移動して、取り分けたほうのきつねうどんを差し出すと、助手はにこにこと受け取りながらそう言った。
「あとお揚げを最初に作った人もヤバい。絶対天国に行けてる。きっとお狐様とモフモフ天国で毎日がキャッキャウフフ……こんな罪深い食べ物、好きにならん方がおかしい!」
「天国で罪深いの最高に矛盾だね」
「いいんですー。美味しいから」
このたまごがまたなー。優しさのかたまりなんだよなー。
深夜テンションがなせる技なのか、赤いきつねに何かそういう力があるのか、助手はいつにもまして饒舌である。心底美味そうに白い麺を啜り、甘やかな色のつゆを吸う姿を見ているうちに、知らず呟きが漏れた。
「……君はいいな」
「え?」
「君はいつも、何でもないことにでも幸せを感じられて。馬鹿にしてるように聞こえるかもしれないけど、私にしてみればむしろ、君みたいに幸せに生きられる方がよほど賢いと思うんだ。こんな恵まれた生活に不満を持つ私は、やっぱり傲慢なんだろうね」
心情を吐露するつもりなどなかったのに、なぜかそんなことを語ってしまった。夜の途方もない静けさと、プラスチックの器から漂ってくる優しい香りが、私の心を少しセンチにさせたのかもしれない。
しかし助手は、何のことはないという風に笑って、こう言った。
「まあ……先生は僕と違って賢いから。なんでもすぐ理解しちゃうし、謎もすぐ解ける。でも、たとえばこのお揚げだって、しっかり時間かけて煮て、つゆの味を染み込ませなきゃ、美味しくならないでしょ? それと同じことです。先生は今、人生のだし汁に煮られてるんですよ」
さらりと告げられたその言葉に、何かふわりと温かなものが込み上げてくる。目から溢れそうなそれを隠すように、蓋をくっつけたままの器に口をつけ、湯気のたつスープを飲むふりをしながら、小声で言った。
「……じじくさい比喩」
「人がせっかくいいこと言ったのに!」
そっと顔を上げてみると、がーん、という顔文字そのものみたいな表情を浮かべる助手がいた。それを見ているうちに、悩みなんて、なんだかどうでも良くなった。
この社会は、天才のおかげで成り立っていると言っても過言ではない。
けれどもきっと、いつの世も天才は、周囲の温かさに支えられてきたのだろう。エジソンであればその母が。兄弟であればお互いが。そしてシャーロックホームズであれば、
それを五分で知れたのだから、やはり私は幸福だ。
「いやそれにしても、人生のだし汁て。ないわー」
「ちょ、追い討ちかけるのやめて!」
きつね色の研究 名取 @sweepblack3
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