足音が聞こえる
空殻
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夜道、足音が追ってくる。
ひたひたと、それは確実に僕を追ってきていた。
僕が止まると、足音も止まる。
僕が歩くと、足音もまた歩き出す。
振り返っても、何も見えない。
足音以外には、何も聞こえない。
どうして。
自問する。
どうして。
僕はなぜ追われている。
どうして。
なぜこんな目に逢っている。
でも、本当は答えらしきものに気付いている。
僕は追われるべきだ。
少なくとも、この世の道理が働くのなら。
追われるべきだ。
僕に良心があるのなら。
僕は、親友を殺した。
半年前、きっかけは些細なこと。
同じ人を好きになった。
些細なこと。
でも、その時の僕らにとっては切実で。
ある酒に酔った夜、はずみで口論になり、僕らは殴り合った。
そして、不幸な偶然で当たり所が悪く、友人は死んだ。
冷たくなった友人を、森に捨てた。
友人は行方知れずとなり、僕以外はその死を知らない。
事件は風化した。
僕の記憶はいっこうに風化しない。
そして、いつからか、僕は時折、足音が聞こえるようになった。
夜、足音は僕を追ってくる。
少しずつ近づいてくる。
僕は立ち止まる。
足音も止む。
しかし、ずっと立ち止まっているわけにもいかなくて、僕はまた歩き出す。
足音はまた聞こえ出す。
さっきよりも近い。
僕は速く歩く。
足音も速くなる。
近づいてくる。
もっと速く歩く。
足音ももっと速くなる。
近づいてくる。
近づいてくる。
近づいてくる。
僕は立ち止まる。
足音も止まる。
僕は気付く。
もう、すぐ後ろにいる。
僕は理解する。
この足音から、僕は決して逃れられないだろう。
夜が明ける前に、僕は森へと向かう。
死んだ友人が待つ森へ。
森の奥で、僕は首を吊る。
きっと、僕も行方不明になるだろう。
足音が聞こえる 空殻 @eipelppa
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