勇者の残骸③
「聞いてたのか」
父は困ったような表情で、半分べそをかきだしたジルに言った。
「……き、聞いてたよ! でも私、お父さんと暮らすから!」
「……」
「なんで黙るの? ウン、って言ってよ! それとも私が病人だから? お父さんは私が病気だから嫌いになった?」
「違う……そうじゃないんだジル。父さんはお前を……」
父の目にも涙が浮かんでいた。
そして、まだ言いかけていた最中ではあったが。
バンッ、と机を両手で大きく叩き、、威圧するような口調で女性は口を開いた。
「ひどい言い様ね。ジル、貴女にそんな事言う資格があるの? お父さんは貴方の病気を治そうと思って、私に託そうとしてくれているのに……。当の本人がこのザマとはね。治るものも治らないわ」
「……」
そう言われるとジルは反論できなかった。
ジルも言われるまでもなく頭ではわかっていたのだ。それぐらいは。
悪いのは父を困らせている自分。
父を責めることなど、出来やしない。
だが、それでも父と離れ離れになるなど、考えられない。
何か言わなくては、本当に自分はこの女性に連れていかれてしまう。
どうしよう。
それは嫌だ。絶対に嫌だ。
何故か、理屈では説明は出来ないがジルはこの女性が苦手だった。
声を聞くだけでも、ゾッと悪寒が走るような感覚に襲われていたが、視界に入れればその比ではなかった。
胸の奥がムカムカするだけではなく、耐えられないという程ではないが、頭痛もした。
心が強く否定していたのだ。
ジルがそうこうして悩んでいると、女性は立ち上がって、ジルの背後に回って肩に手を置いて、さっきまでとは打って変わって、優しい口調で言った。
「貴方の苦しみを解放してあげれるのは私だけ。私と一緒にハーマンに行きましょう」
「い、嫌…」
反射的にジルは女性の手を振り払った。
悪魔の囁きにしか聞こえなかったのだ。
そして、父に助け船を求めたが、
「…あまり父さんを困らせないでくれ。ジルの病気が治るのなら、父さんは何だってする。だから……ついて行きなさい、そして元気になって…帰って来なさい。父さんはいつだって待ってるから」
「でも—————————うん…そうする」
ジルは最後まで反抗したが、その時父が唇を歯で血が出るほどに噛みしめているのを見て、父も自分の為に我慢しているのだと思い、観念して従う事にした。
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