勇者の残骸①


――その少女、ジルは生まれつきひどく身体が弱かった。


原因不明の病が少女の身体を蝕んでいたのだ。


一年の内の大半を床の上で過ごし、対処療法で出された苦い薬なしでは生きていけない。


少しでも過度な運動をとれば、喘息のような症状が出たり、めまいや貧血、高熱を出して、安静にしなければならないひ弱で憐れな身体。


まだ当時10にも満たなかったジル。


同世代の子供たちは活発で街を走り回って遊んでいるのが羨ましくて仕方がなかった。


(何でこんな身体で生まれて来ちゃったんだろう……。私も皆と遊びたい……)


ジルがその思うのはごく当然の事であり、歯がゆい思いをして過ごしていた。


が、それは絶対に口に出すことはなかった。


口に出せば、自分の為に方々に治療方法を聞いて回ってくれている両親に、さらに迷惑をかけると思っていたから。


だから、ジルは何も言わなかった。


お腹が痛ければ、じっとベッドの上でお腹を押さえて蹲って、痛みが引くまで待ち、咳が止まらなくなれば、咳が出来るだけでないように口を押さえて我慢していた。


結果的に、それが症状の悪化を招き、こっぴどく叱られることになったが。


――我慢するな。しんどかったらしんどいって言いなさい。きっと父さんが王様に頼んでーー。お前はきっと……絶対に皆と同じ元気な身体になれる。なれるとも。


宝石商人を務める父が自分に言い聞かせるように言った言葉。


だが、それが非現実的な言葉であることを賢いジルには分かっていた。


エドモンドは閉鎖国家。


他の国との一切の外交を絶ち、文明も科学も100年前から何一つ進歩していない。


勿論、医療も。


国内の医療では自分の病気を完治させることは不可能であること。


(このまま、私死んじゃうんだろうな……)


生きる屍のようにただベッドに横たわる自分。


次第に、ジルは生きることを諦めようとしていた。



☆★☆


だが、転機が訪れた。


ある日、突然父が血相を変えて、部屋に飛び込んできてこう言ったのだ。


――ジルッ!! 病気治るかもしれないぞっ!! 


小刻みに息をし、吹きこぼれる喜びを顔に表現しきれないといった父の喜びよう。


「お父さん……良いよ。そういうの……」


それまでにもこういった事は何度かあったけれど、どれも『外れ』だったことで、ジルはいつものように適当にお茶を濁して、愛想笑いをしたが、その日の父はそれでは終わらなかった。


「ついてきなさい! 今すぐ治そう!」


「え……ちょっと! お父さん!」


ベッドで寝ていたジルを無理矢理起こして、外に用意してあった馬車に乗せ、父はとある場所に向かった。
















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