2話


それはまさに後継者不足に頭を悩ませていた騎士団にとって朗報だったが、白の騎士団団長キースが挙手をして、怪訝そうにロックに訊ねた。


――なのかね? 未熟者は不要なのだが。


ロックは答えた。


――有望株であるかは剣を交えて確かめるといい。もっとも、私は13の息子が君に劣るとは思えんが。


厭味ったらしく不敵に薄ら笑いをキースに対して向けるロック。

しばらくの間静寂が場を包み込んだが、それも少しの間ですぐにざわめきが起こった。


騎士団員の入隊条件は18からであり、それまでは見習いとして騎士学校で剣の腕を磨き、その中で優秀な成績を修めた者のみが入団できるというのが通説であり、事実一人の例外もなく、皆が騎士学校を卒業している。


そんな中、入学すらしていない者が、騎士団の頂点の一角を担う騎士団長と刃を交える事は、有望株などの次元の話ではない。


一体全体、その『隠し子』というのはどれほどの力量をもつのか。


キースのみならず、剣を極めようと日々鍛錬を積んでいる団員は、ごくりと生唾を飲んで、これから皆の前に姿を現すであろう『神童』を今や今やとその目に焼き付けようと、一歩壇上に身を寄せた。


☆★☆


ロックの「入れ、ジル」という言葉と共に、壇上に上がった彼は、ロックの隣までスタスタと近づき、ピタリと止まって、団員の方に向き直り、軽く頭を下げた。


既に黒騎士団の制服を着こなしていた。


ショートボブで紅色の髪。

彫りのふかい彫刻的な顔立ち。

思ったよりも小柄で、スラリと雪のように白く細い手足。

無愛想でニコリとも笑わない彼だったが、その仕草の一つ一つに気品があり、意図せず人を惹きつける魅力が彼にはあった。


しかし、誰もが彼を見て『違和感』を感じとった。


それは、髪の色。


帝国民は基本的に髪の色は黒か金色。


紅色など聞いたことも見たこともない。


すぐさまキースがロックに問いただした。


――それは本当に君の子なのかね? 私には似ても似つかぬように思えるのだが。


まだキースが言っている途中だったが、ロックは声を落しドスを効かせて言った。


――くだらない。そんなことを言って何になる? 重要なのは、息子が『帝国の剣』の一部になりえるかどうか。違うか? それともなんだ? 新米騎士に敗北し、醜態をさらすのは嫌か? 


明らかに挑発的なロックの発言を受けて、キースは完全に頭に血が昇っていた。


慌てて止めようとする団員を抑えて、壇上に上がって、ロックに殴りかかった。



グシャリ


肉が潰れる嫌な音。


キースの拳は確かに顔面を捉えた。


ただし、それはロックではなく新米騎士の彼の方だったが。












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