3話


キースはロックの事がとにかく嫌いだった。


それはひとえに、ロックがキースが思い描く騎士道精神に反する人物だったのが大きい。


キースが騎士とは正々堂々であるべきだと考えるのに対して、ロックは騎士とは「如何なる手段であろうとも、ならば最後に勝てばいい」という風に。


出世に関して言えば――。


キースがその身一つで下っ端から純粋に剣の力のみで団長の座に駆け上がったのに対し、ロックは裏で金品や接待などの賄賂を駆使して居座った。


戦法に関して言えば――。


キースが、宣戦布告をしてから、真正面から敵に挑むのに対し、ロックは密偵を敵陣に紛れ込ませ、内部情勢を崩壊させて弱った所に奇襲をかけるのが十八番。


そして、勝利を手中に収めた後も両者の対応も全く違うものだった。


キースは、征服した植民地の民に対し、それまで通りの税率を採用し、負担を強いることはしなかった。

だが、ロックは重税を課して、ロイス家に更なる富を上乗せし、黒の騎士団員に関しても、住民から現金やら宝石類などの金品に繋がる全てを吸い取る略奪行為を黙認していた。


黒の騎士団の悪評をキースは最初耳にした時、真実だと信じられなかった。


――そして、現地調査をした時、それが真実であることが分かった時、わが身のように恥じた。


「帝国に泥を塗る行為である」と皇帝陛下に申告したが、皇帝はそれを黙認した。


ロイス家の皇帝への献上金は他に類を見なく、皇帝もロイス家をおいそれと切り捨てることが出来なかったのだ。


相槌をうち、聞いている風を装うばかりで、忠言に耳を傾けない皇帝に、キースは何とか理解してもらおうと言葉を噛み砕いて言った。


――私欲に走る事。それが大国であれど容易く滅亡へと誘う事は、歴史が証明しています。我が国が100年前に打ち滅ぼしたガリアの結末を陛下も知っておいででしょう。陛下は、ガリアの二の舞を踏みたいのでしょうか。どうか、今一度考えなおしを。


しつこく食下がるキースに皇帝陛下は、こう答えた。


――たとえ滅亡の一途を辿る運命にハーマンがあるとしても、それが今でなければ問題ない。そもそも、ガリアが滅びたのは内輪揉めが原因ではないか。盤石な体制を整えていれば、ガリアは今も形はどうであれ存在していたであろう。内輪揉めーーキース、貴様が今我をそそのかして引き起こそうとしている事だ。我を憂い思うなら、ロックと手を結ぶよう努めよ。


遺恨を無くし、協力する。


正論だが、それが出来るぐらいなら苦労はしないのだとキースは心中溜息をついた。






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