第30話 神剣とボクっ娘✕2

地面にぶっ刺さり続けている神剣を指さして尋ねる。


「これ、普通に抜けんの?」


結構深めにぶっ刺さってますけど。


「うん。多分?」


知らないと言わんばかりに首を傾げる精霊さん。


「疑問形なのが怖えよ。よいしょっと……」


俺はこれ大丈夫かと思いながら、剣に手をかけて思いっきり上に引っ張る。


その瞬間―――――



スッポン



そんなキレイな音を立てて、神剣がその全貌を顕にした。


「……抜けたぞ。あとなんかビリビリする。」


抜けたばいいのだけど、持っているところから電気が走るような変な感覚がする。


小さめの電流が流れてる感じで、ちょっと気持ちいい。こんなマッサージがあった気がする。


「うん、意外とあっさりだね。ビリビリするのは君とその剣が同期してるから。」


「なにそれ怖い。あっ、終わった。」


精霊さんとお話していたら、いきなりピリピリが消えて剣の刀身が一度淡く光った。


「それでその剣が君のものになったわけだ。おめでとうだよ、七つの大財のうちの一つを手に入れたんだ!」


精霊さんがパチパチと拍手しながら笑う。


「そりゃどうも。ほらよ」


俺は喜ぶでもなく、目の前の精霊さんに剣を差し出す。


「なに?」


精霊さんがどうしたのと言いたげに尋ねた。


「これお前にやる。」


「はい?」


「お前精霊なんだし戦えるだろ。だから、これはお前が使え。」


俺はよくわかってない様子の彼女に、剣を押し付けて言う。


「これはまたぶっ飛んだことを。青の神剣を守る精霊の僕に、その剣を使わせるなんてなかなかにハードなプレイを要求するね。」


精霊さんは剣を受け取るでもなく、笑いながら言う。


「理にかなってるだろ? 俺より使い方知ってるだろうし、人手がニ倍になるし。」


正直俺がこんなすごい剣を手にしても、あんまり意味を成さないと思う。

だって俺ちゃんと剣を学んだことないし、戦いのときはだいたいフィーリングと経験でどうにかしてるし。


「それはそうだけどさ。君は何使うの?」


精霊さんは渋々といった様子で剣を受け取って、俺に尋ねてくる。


「コレ。」


「それ、オマケの宝箱……そんないいもの入ってたんだ。


神剣の刺さってた台座の裏にそっと置かれていた宝箱を開ければ、本当になんの装飾もない銀ピカの剣が入っている。


「なぁ。いかにも良さげな剣じゃね? よし、俺の相棒はこいつに決定。」


俺はこういうのでいい。

というか、これですら使いこなせるか不安である。


「本当に僕にこれ使わせるの? 精霊だし、裏切るかもしれないよ?」


精霊さんはどこが不安そうな顔で俺を見上げた。

そんなことを気にしていたのか。


「マジ。精霊だし、裏切られないようにすりゃいいんだろ。」


精霊なのはマイナスではなくむしろプラスだ。人間なんて己の欲望に柔順すぎる奴らより、精霊のがまだ信用できるだろう。なんか良いイメージだし。


裏切られるってのは否めないけど、まぁそこは努力でなんとか頑張ろう。それでも無理なら、その時はその時。どうにかなるだろ。


「君、本当に面白いね。」


精霊さんは驚きと喜びを半々に、俺を見つめる。


「だろう。ほら、ノース起きろ。帰るぞ。」


俺は軽く笑って、今も何がブツブツつぶやいているノースの肩を揺さぶる。


「はっ、ぼ、僕は何をして……?」


数秒揺すっていると、息を吹き返したようにノースが起きた。


彼女はあたりを見渡すと、そんなテンプレ感想を述べた。


「はいはい、おぶってやるからあっち行くぞ。」


俺は未だによく分かっていないノースを背中におぶり、歩きはじめる。


「ありがと……って、背負わなくていいですから!!」


「大丈夫、大丈夫。お前軽いし、すやすや寝てろ。」


ポカっと一度俺の背を叩いたノースをあやして俺は降りて来た階段を今度は昇っていく。


「あ、ありがとうございます。」


「君たち、仲いいね。」


おずおずといったように感謝の声を述べたノースを見て、精霊さんが言う。


「そりゃあ命をともにする海賊団だし。一応直属の部下と上司だし。あと、今日だけで僕っ娘が二人も増えた。」


今まで女の人は船長一人だったのに、それが一日で三人になり。さらにボクっ娘属性つきが二人。


少しヒロインの偏りがすぎるような気がしなくもない。


「なに、僕に僕じゃない言葉を使えと?」


「なんで嬉しそうなんだよ。いいよ、我とか我輩とか言われても困るし。」


精霊さんが一人称変更に意外とノリ気でビビった。


そこはこれはぼくのアイデンティティだからとか言って拒むところではないのか。


まあ別にボクっ娘が何人いようとそこまで気にしないからいいんだけど。


「そうか。少し残念だな。」


やはり残念がる精霊さんとともに、俺は階段を登っていった。

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