第31話 脱出!!
「さて、ここからだ。」
「水に囲まれてるね。」
階段を登りきったあと、俺たちの眼前に広がるのは水の壁。
この波をどうするかなんだよな。
来るときは波にのせられてきたけど、帰りはそうも行かないし。
「お前の出番だ。その剣の力でバーンと水をどかしてくんしゃい。」
俺は潔く精霊さんに頭を下げてお願いする。
神剣の力をもってすればこんな無機物チョチョイのチョイでしょう。
「マジで僕にやらせるのね。はぁ、とんでもない人に七つの大財が渡ってしまったよ。」
精霊さんはやれやれとつぶやくが、その顔は微笑んでいる。かわいい。
おぉなんだツンデレか。俺は好きだぞツンデレも。ただ、叩いてくるのとか理不尽すぎるのはノーサンキュー。
「大丈夫だ。俺、倫理観と道徳心だけはあるから。あと、禁欲については右に出る者はいないほどのプロ。つまり、人間として最強。」
倫理観、道徳心、理性。
これだけ揃えばもうあとは何もいらないだろ。
アイ・アム・パーフェクトヒューマン!!
「はぁ、最強な人は自分で言わないんだよ。よいしょっとっ!!」
精霊さんはため息とともに神剣を持ち上げて、横に思いっきり振る。
「うぉぉ、スッゲェ!! ヤッベェ!! 強すぎるだろ。」
その瞬間、この島の周りにあった渦巻きが消し飛んだ。
スゲェ、どんな原理かは分からないけどとにかくスゲェ。
「すごいでしょ。これが神剣の力。」
精霊さんが誇らしげに言う。かわいい。
「怖いほどに強いわ。てか、その体でどうやってあの剣持ってんの?」
素直な感想を述べたあと、こちらも素直な疑問を述べる。
精霊さんの体は小さく、俺の三分の一くらいしかない。横に立てば膝上くらい。かわいい。
その小さな体で剣を持って振り回していたけど、そんな力どこから?
「僕、神剣を守る精霊だからね、使えないと困るでしょ? だから使えるの。」
精霊さんは説明口調でいうが、全く説明になってない。
「大丈夫、変えようと思えば人間サイズになることだってできるから、戦いのときも安心してくれよな。」
パチリとキレイにウィングをしながら精霊さんが言った。かわいい。
「そりゃ頼もしいこと。」
人間サイズにねぇ。
今でも可愛らしい精霊さんが人間サイズになったら、もっと可愛くなっちゃうんじゃない?
そしたら俺たち、もう我慢できなくなっちゃうんじゃない?
そんな不安は無きにしもあらずだが、戦いにちゃんと参加できるのは申し分ない。
いっつも俺一人だと話す相手いなくて寂しいしね。うちの団は危なっかしいやつばっかだから。
「やっぱり剣使いたい?」
精霊さんは青の神剣を小脇に抱えながら言う。
今気がついたけど精霊さん、神剣を背中に背負ってるのね。
Sサイズの精霊さんが長剣の神剣を背負っていると、なんというか背負わされてる感というか、本体が神剣のような感じがする。かわいい。
「いいや、お前に任せるよ。安心しろ、給料はない分うまい飯は食わせてやる。あと、巨乳な船長と汗臭い筋肉ダルマ達が可愛がってくれるはずだ。
こんなマスコット的な女の子が来たらアイツラ喜ぶだろうな。
いっつも、目の保養になるはずの船長が毒にしかならないと嘆いてたから。
「精霊だからご飯はいらないんだけどね。まあ貰えるものは頂いておくよ。」
船長は宙に浮いて俺の目線に合わせると、ニッコリと微笑んでみせた。
さっきからかわいいかわいい言い過ぎかもしれないけど、俺は何度でも言う。かわいい。
ちっちゃくて
いいよなこういうの、相棒的な感じで。
船長とは長い付き合いで相棒と呼べなくもないが、どちらかというと相方だな。決して漫才はしない。
「よろしくな。」
「よろしくね。」
俺たちは船長たちの船を待つ間、コツンと拳同士をぶつけながら言った。
俺、青春してるわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます