第29話 性別の暴力
「おい、ノース剣抜くぞー。お前もやりたくねーか………って、ノース?」
いよいよお楽しみのお時間だと興奮気味に振り返ると、そこには膝を抱えて何かをつぶやいているノースがいた。
「こんなのおかしい、もっとちゃんとした手順を踏んで、最後の戦いもしっかりと心理戦してそして勝つものでしょ、こんな方法で突破しちゃ……」
声をかけてもブツブツとつぶやき続けるノース。闇落ちしちゃっている。
「彼……彼女? どうしたのさ」
精霊さんもノースの異変に気がついたらしく、俺を叩く……というか肩に乗りながら言う。
「あぁ、多分現実と想像の
ノースちゃんは女の子なのよっ!!
たしかにお胸はあれだけど、お顔はこんなに麗しくてよ!!
「例え方のクセよ……。まあ、整った顔立ちだよね。僕の方が可愛いけど。」
精霊さんが苦笑いの後、ドヤ顔を見せる。
「そりゃ、精霊さんと生身の人間だもの。」
神に愛され造られたであろう精霊さんと違い、こちとら自然発生的に増える人間。
ブッサーイクになることも美人になることも、全ては偶然の産物。人間スゲーよなって話。
「あとさ、戦いのときは誤解してもらったほうが嬉しいから否定しなかったし、精霊に明確な性別はないけど。僕どちらかというとメスの方だよ?」
俺が人間の神秘に感動していると、精霊さんが目の前でくるりと回ってそんなことを告げる。
「…………マ?」
う、嘘だろ……?
だって精霊さん、お胸が船長はおろかノースにすら及ばない……大砲じゃなく小砲だよ……。
「なんでそこで胸を見るのかな。残念ながら胸もないし下もついてないけど、女の子寄りだよ。」
精霊さんはジトーっとした目で俺を見て、頬をふくらませる。
「マジか、俺やっぱお前煮たり焼いたりしようかな……。」
これで女三人目。いよいよ逃げ道がないぞ、あと一人で四面楚歌コンプリートだ。
「あれ、なんでガッカリしてるの? 今までの言動から鑑みるにそこは女ってわかって喜ぶところでは?」
「いや、普通に男の子のが良かった。俺は諸事情により女の子が近くにいないほうがいいんだよ。」
不思議そうにつぶやく精霊さんに俺は悲しい現実を告げる。
たしかに、船長もノースも精霊さんもおかわゆいですけど。可愛いからこそ、近くにいられたら困るのだよ。
「どういうこと?」
「カクカクシカジカってことだ。」
疑問符を浮かべる精霊さんに雑だがここまでの経緯をお話する。
「なるほど。けどその理論で行けばここは船の上じゃないから、出せるんじゃないの?」
話を聞いてそうそう、精霊さんがそんなことを言い出した。
「おまっ、バカだろ。そりゃそうなんだが、コレ!!」
俺はビシッとノースと精霊さんを同時に指で指す。
そういえば、人を指で指したらだめなんだっけか。まあ、精霊さんは人間じゃないし、部下だしオッケーってことで。
「僕と彼女がどうかしたの?」
「女がいる場所で盛れるわけねぇだろっ!! どんな変態だよ!」
頭を傾げる精霊さんに、俺は心から叫ぶ。
こんなところでヤッてしまった暁には、俺は一生変態のレッテルを背負うことになる。
はぁ、船に戻れば船長の大砲が待ち受けているし、唯一の拠り所だったノースは美少年じゃなく美少女だったし。さらにはついて歩いてくる精霊さんがいると。
ここが陸ならば、ハーレムとして薄い本の表示を飾ることもやぶさかではないのに。
今の条件下では両手に花ではなく、両手にニトログリセリン。常に発火数秒前。
地獄以外の何物でもない。
「彼女はなんか自分の世界だし、僕は気にしないよ。」
だからヤっちゃいなよと精霊さんが悪い笑みで言ってくる。
「おぉそうか、ならちょっと失礼して………ってちがぁう!!! そこは気にしろよっ!! あとお前らの問題じゃないの!! こちらの問題! 男としてというかなんというか、とにかく無理なもんは無理なの! ほら、早く剣抜くぞ。」
俺は一瞬誘惑に負けそうになるのをなんとか堪えて、もうこの話題から離れようと剣の方に向かった。
「難儀なものだね〜」
精霊さんがヤレヤレと言いたげ肩をすくめる。
う、うるさいんだからね!!
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