第18話 寒い中でも胸は揺れる
「うぉっ!」
いつもの感覚で舵を切ると、思ったよりも船が傾いてびっくりする。
舵の横にあったボタンを押したら、マジで船体が浮いたので超驚いた。
人類の進歩ヤベェー
「これで、あっち側ね。オッケッケ。」
感覚は違うが、やることは同じで。方角を確認して、そっちに舵を取って進める。なにか危ないものがあれば避けて、敵がいたら撃つ。
まぁ、この氷の上には敵はいないだろうけどね。
「ほんとすごいよなコレ、どうやって浮いてんだ?」
浮かせるとなると地面に向かって空気を送り続けるとか、あとは翼とか色々あるのだが。
この船は下から空気が出てることもなければ、翼がはためくこともない。
一応翼ついてるけど、動いたりなんかせずそこにあるだけ。
「謎だわ」
「うぅ、さっみぃ」
俺が原理のわからない浮遊船に頭を悩ませるとともに興味を抱いていると、後ろから船長の寒そうな声が聞こえてくる。
確かに海が凍るほどに寒いので周りは氷点下以下。
俺や団員たちも防寒着を何枚にも重ねて着て、なんとか耐えしのいでいるのだが。
「うぅ……死ぬぅ……」
そうつぶやく船長は、いつも通りの薄い胸の強調する服とローブ。
「謎だわ」
何故彼女は防寒対策をしないのか。
それで寒い寒い言っているのか。謎だわ。
「船長、中は温かいですぜ。」
見かねた団員がそう声をかけて、船の中を指差すが……。
「うぅ……いや、氷の上を進むのを見ていたい……さみぃ……」
船長はそれを拒否して、体をさする。
いや、謎の意思。
そこは大人しく、中に入ってぬくぬくとしていてくださいよ。
俺は今にでも中に駆け込みたいのを我慢して操縦してるんすから。
いくら防寒着を着て手袋をつけたとしても、寒いものは寒い。
俺のお盛んな息子さんまで、寒すぎて萎えてしまって縮こまっている。
「船長、これいります?」
「アザースっ!!」
ブルブルと震えているのを見かねて、ノースがかなり厚めのコートをもってきて船長に渡す。
ナイスプレー。ナイスプレーなのだが……
「うぉぉあったけぇ!! さっすがノースくん、温かみが違うなぇ。」
船長はコートにくるまって小躍りを踊る。
…………胸がゆれるんじゃ、ボケ
何度でも言う。揺れる。液状化してるのかってくらいに揺れる。本当に流動性高すぎワロタ。
揺れたらもちろん、俺の目線は吸い寄せられ、そしてまた見てしまったという後悔にさいなまれる。
もはやルーティンとかしたこのループ。
メリットは胸が揺れること。
デメリットは胸が揺れること。
「ありったけのゆ〜めを、かきあ〜つめ〜」
俺がお胸をイメージして、なんか聞いたことあるような歌を歌っていると。
「やめて!! お願いだから舵を取りながらその歌を口ずさまないで!!」
船長に怒られてしまった。
俺も何故かはわからないが、ヤバいような気はしていた。
「さみぃなぁ。早く交代になんねぇかなぁ」
基本俺が舵を取るが、俺も寝たいし休みたいので、数時間おきに交代タイムがある。
「ふぁぁ」
俺はあくびをしながら空を見上げた。
冬だからだろうか、灰色の雲が立ち込めていた。
それを見て俺は、少しだけ不幸を予感するのだった。
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