第17話 おっぱい滅びねぇかなぁ
「やっと……着くのか……」
俺は落ちかけの意識をどうにか保ちながら、船の先端でつぶやく。
「はい。もうそろそろだと本船から。」
俺の辛さを分かってくれている団員も、微笑みとともに敬礼をしてくれる。
出航から一週間ちょっと。
ようやく、最初の目的地としていた氷と水の境目までやってきた。
ここまで色々なことがあった……ようでなかった。
ずっとずっと起きて仕事をして、限界が来たら死んだように眠り。そしてまた起きて働く。
そんな生活を続けていた。
なぜなら、起きている間は常に息子が起きていると言っても過言ではない。そのくらいに俺は欲望があふれ出しそうな、限界ギリギリを保っているから。
「これで、あとは氷の上を行って渦潮を超えるのみ。戦いもさっさっと終わらして、早いところ陸に戻るぞ!!」
俺は眠気すら覚めるような希望の満ちた声で叫ぶ。
「ここから先は船長と元帥と、あとは限られたメンバーだけですが、俺たちはずっと元帥のこと応援してますよ。」
俺の隣りにいたいかつい男が、暑苦しい笑みを浮かべて言った。
「…………へ?」
今なんて?
船長と俺と、あとは限られたメンバーだけ……?
…………!!!!!?
そうじゃん俺、バッカン!!
何終わった気になってんの、ここからが本番じゃねぇかよ。
氷の上を行けるこの船で少数精鋭で行くって言ってたじゃん。今までは遠くからだったあのおっぱいが目の前に来ちゃうじゃん。
どうすんの? もういよいよ限界よ?
限界限界言い続けてもなんとか耐えてここまでやってきたけど、マジで終わりだよ。
「お、俺も待ってようかな〜」
俺はそう言って本船の方に向かう団員たちに紛れようとするが……
「元帥がいなくなったら、誰が戦うんすか? 海の上ならまだしも、水中の神殿で戦えるのなんて元帥以外におりませんよ。」
クッソぉ、そんな当たり前なことみたいな顔で見やがって。
「わかったよ。やればいいんでしょ!! やりますよ、我慢しますよ。えぇいけますよ、だって原寸だよ? 元帥なめんじゃねねぇぜ。 」
俺は部下にキレ気味で叫んで、元いた船の先端の操縦桿の前まで戻る。
「あ〜あ、おっぱい滅びねぇかなぁ」
そもほもおっぱいなんてあるから俺は困っているんだ。もしあれが平らなら、俺が発情することも絶叫することもなかった。
「けどな、滅びたら滅びたで困るんよな。」
おっぱいがあるせいで辛いのは事実だが、おっぱいのおかげで今まで辛い壁を乗り越えてきたのもまた事実。
結局、俺たち男はおっぱいから逃れることはできないんだ。悲しきかな。
「よ〜し、じゃあそろそろ進むかぁ!! 元帥くん行っちゃって!」
俺がこの世の理を嘆いて虚無っていると、いつの間にか近くにいた船長が腕を振り上げて言った。
せ、セーフ……今のはギリセーフ。
驚いて船長の方を見そうになったが、すぐさま危険を察知して目をそらした。ナイス、俺の脊髄反射。
同じ船にいたとしても、おっぱいを見なけりゃいいんだ。
俺は前だけを見つめて、舵を取って船を浮かせ始めた。
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