第16話 白熱の議論。そして、とうとう壊れた元帥
航海というのは、ビックリするほどに、やることがない。
あるにはあるが、すべて繰り返される作業ばかり。つまらない。
基本は船を進ませるだけ、あとは適当に暇をする。
海上で楽しみなんてない。飯はマズいし、布団は硬いし、性欲も禁止されている。
3大欲求が制限された中で、男たちが何をするかというと……。
「おまっ、バカじゃねぇのデッカイのが良いんだろ!?」
「違うだろ!! 小さいことによるあのつつましさ。そしてそれを恥ずかしがる美少女。だからいいんじゃないですか!! あんなデカいの見せびらかすのは違います!!」
「はぁっ!? じゃあお前船長のあれ見ても何も思わねぇのか!?」
「っ!! それは……あれは卑怯です!! デカすぎるんです!!」
おっぱいについて語り合っていた。
現在は、貧乳vs巨乳。
俺は審判としてみているだけだが、派閥は断然大きい方だ。
ただ誤解してほしくないのが、好きな女の子が巨乳じゃないとだめというわけではない。
見るだけ、揉むだけなら大きい方がいいけど、実際は別にそこまで気にしない。ただ、おっきい分には構わない。
このゲームはそういうことも理解し合った上で、本気で語り合うのだ。
「ここまで!! 勝者は……巨乳派!!」
俺は手を振り上げて、巨乳の船員の腕を掴む。
「クソぉっ!! けど、納得ッス」
「よっしゃぁ!! ちっせぇのもいいよな。」
二人は汗だくで笑い合って、ガッチリと拳をかわす。これこそ青春。
「続いて、尻vs胸!!!」
俺は己の推しを語りたくてウズウズしている奴らに、続いてのマッチを告げる。
「きたっ!! 俺ら尻派の逆襲だ!!」
「胸に勝つものはない。あそこには希望が詰まってんだ!!」
圧倒的に胸派が多いと思っていたが、案外尻派も多いようで、全体を見ればちょうどトントンくらい。
これははるか昔からの議題であり、勝負開始前からバチバチだ。
「ファイッ!!!」
俺は右手を振り上げ、議論の開始を告げる。
「まず、胸は揺れる!!! 尻は揺れん!!!」
「尻は柔らかく、最も女性的な部分だ!! 胸と違って敷かれたり踏まれたりもできる!!」
「胸だってできる!! 大きければ!!」
「ほらまた!! そうやって小さい派をのけものにする!! それに比べて尻ってのは大小関わらない!!」
「けど、でかいやつのがいいんじゃないのか!?」
「人によってだ。デケェのが好きなやつも、小さいのが好きなやつもいる。他にも弾力や見た目なんかも大事だ。」
「お、奥がふけぇ……。けっ、けど!! おっぱいは至高だ!! 船長を見ろ!! まず目に行くのは尻じゃなく胸だろ!?」
「いいや、俺らは尻だね!!!! 船長のあのケツに敷かれるために頑張っていると言っても過言ではない!!」
「クッ……目立たないだけで船長ケツもデケェんだった……」
「そこまでぇっ!!!!!」
白熱してきたところで俺はタイムアップを告げる。
いや、なかなかに見応えのある素晴らしいマッチだったな。
胸派が圧倒するかと思えば、尻派が頑張ってたし。
俺は考えに考えた上で、
「引き分けっ!!」
そう勝敗を決めた。
「くっそぉ!!!! 俺らのが上じゃないんですか!?」
尻派代表が詰め寄ってくる。
「確かに議論では尻のが優勢だった。」
「な、なら……!!」
言いかけた俺の言葉に、尻派が更に詰め寄ってくるが、引き分けに変わりはない。なぜなら……
「俺が圧倒的に胸派。だから、引き分け。」
俺は絶対に変えないという強固たる医師を見せる。
「そんなの卑怯じゃんか……!!」
「審判の特権だな。」
ずっと口出ししたかったのをこらえていた俺をほめてほしい。
尻と胸? 胸だろ。そしてでかいに限る。異論は認める。
相手の好みを理解し、尊重し合う。その中にこそエロの絆は宿り、皆平等に禁欲の苦しみを分かち合うことができる。
「そういや元帥、船長の服のこと知ってますか?」
今度は俺も議論する側で参加しようかと思っていると、部下の一人がそんなことを言ってきたり
「へ? 知らないぞ」
いつものあの凶悪なおっぱい強調服じゃないのか?
「船長が珍しく他の服着てるんです。元帥が上げたんじゃないんですか?」
「ッ!! マジか!! 船長今どこにいる!?」
船長、着てくれたんですね。
これで……これでようやく俺たちの希望が叶う……!!
船長のあの恐ろしい
「本船で寝転びながら部下に指示して、舵とってますよ。」
「ありがとぉっ!!!」
俺は部下の言葉を聞き切らないうちに走り出す。
服が見たいのではない。船長の胸が隠れているというその平和的かつ感動的瞬間を、今すぐにでも捉えたいのだ。
「グラスかせ!!」
「えっ? は、はい」
俺は本線の側の手すりに飛びついて、近くを通った団員から望遠レンズを奪い取る。
船長、船長、船長…………いたっ!!
部下の言ってた通り船の一番前で寝転んで、部下に指示だけして船を操作させている。
何してんだよ船長というツッコミは一度おいておいて、俺は彼女の服をガン見する。
俺らがずっと悩まされてきた船長の露出癖が直り、胸は隠れ、俺たちは喜ぶ。最高ではないか。
そう。最高な……はずだった。
「う……そ…………だろ……」
俺はその姿を確認した瞬間、理解できずに2度瞬きをして、再び確認し……崩れ落ちる。
俺たちの希望が……鉄壁の防御が……。
隠れるように買った厚手のパーカーも、船長の胸の前にしては敵わないのか……。
パーカーの胸の部分だけが盛り上がっていて、隠れていることには隠れているが、それが返ってさらにエロくさせている。
クソぉ、俺らの希望が……。
「元帥、大丈夫ですか? やはり、休んだほうがいいのでは?」
ガンガンと更に強く頭を手すりに打ち付ける俺を見て、通りすがりの部下が心配の声をかける。
「ダメだ、今休んだら俺は海賊じゃいられなくなる……。動き続けねば、考える時間も思考する暇も与えぬほどに動き続けなければ。」
確かに痛いさ。血だって出そうだ。
けどな、ここでやめたら俺は絶対にマイソードを握ってしまう。
それだけは……それだけはダメなんだ。
「働かねばっ!!」
俺は社畜のようなことを叫んで、船の中を走り始めた。
「元帥壊れたわ」
「ついにか。けど、よく持ったほうだと思うぞ」
「そっとしてあげよう」
そんな声が聞こえてきたような気が、しなくもなくもない。
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