第15話 枯゛れ゛て゛ね゛ぇ゛よ゛ぉ゛お゛!!!!

「あぁ、陸が離れていく……。」


「俺たちの楽園が……」


「また海だ……また禁欲だ……」


「おぉ神様、我らに御慈悲を。息子を放置することをお許しを。」


夕方と夜の狭間。空に美しいグラデーションがかかる時間帯。


とある街の港には、男どもの悲痛な声が響き渡っていた。


そしてもちろん。その中には俺もいて。


「くっそぉ、なんでだ……。何故お宝は海にしかないのか……!!」


海賊として元も子もないことを嘆いていた。

クソぉ、コイツラはいいだろぉがよ。一回は出せたんだから。


俺なんてまだ出せてすらねぇんだぞ。これが終わる頃にはご無沙汰期間半年に突入するぞ。もうその頃に性欲があるのかする疑問だぞ。


「クソぉ……クソっ……クソぉっ!!!」


俺は船の手すりに頭を打ち付けて、ガチで涙をこぼす。クソぉ、俺のパラダイスがぁ……。


「おい、元帥泣いてるぞ」


「元帥が一番船長の近くにいるもんな」


「あれでよく襲わねぇよな。流石だわ。」


「俺は無理だ。やっぱそういうとこが元帥たる所以なのかもな。」


「枯れてんじゃね?」


離れたところから聞こてくる団員たちの言葉。いつもなら笑って絡みに行けるけど。


「枯゛れ゛て゛ね゛ぇ゛よ゛ぉ゛お゛!!!!」


今回ばかりは泣き散らして鼻水垂らしながら、そう叫んで否定するしかできない。

男にとって、性欲を制限されるというのはそれだけ辛いのだ。


「やべぇよ……元帥狂っちまったよ」


「そっとしてやれ」


「あぁ、触れないでおこう」


俺がこうして発狂するのは珍しいことではないので、団員たちも久しぶりだなと理解して去っていってくれた。


かたじけない……俺が欲深いばかりに……。


「ぐすっ……クソぉ、待ってろよ神剣。ぜってぇぼこして俺のものにしてやるからな……。」


いつまでもこうしてひしがれているわけには行かないので、俺はこの憤りや悲しみをすべて神剣にぶつけて立ち直る。


神剣は全く悪くないから少しばかり気の毒になるが、こうでもしないと俺の欲望特急が止まらないので、尊い犠牲になってもらおう。


「ハイちゅうもーーく!!」


俺がどうにか自我を取り戻したところで、船の上の踊り場に船長が出てきて、みんなに手を振り始める。


俺とさっきの優しき団員たちがいるのは、今回のために手に入れた奪った最新型の水氷両用の船の上。


船長がいるおっきい方は本船で、基本団員はあっちにいる。


二つの船で氷のないところまでは進み、氷が出てきたら大きい方は止めて、小さい方で少数精鋭で向かうという算段だ。


「じゃあみんなー!!! 青色目指して、しゅっこーーう出航!!!」


みんなの視線が集まったところで、船長は大きな声で叫び、飛び跳ねながら旗を揚げる。


「「「しゅっこーーう!!!」」」


二つの船から野太い掛け声が上がり、船が進み始める。


「はぁ……船長……おっぱい…………ヤバイ……」


周りで皆が準備に取り掛かる中。俺は再び手すりに頭を打ち付けながら、煩悩と戦闘していた。


あんなたわわなもん見せられたら、収めたもんぶり返すに決まってんだろ。


クソぉ、なんで俺は見てしまったんだ。船長の大砲おっぱいが揺れるのなんて、わかりきっていたじゃないか……。


「抑えろ抑えろ抑えろ抑えろ抑えろ抑えろ」


「元帥、大丈夫ですか?」


俺が抑えろボットになりかけていると、ノースが心配そうに声をかけてくれる。


「ノース……俺はもうダメかもしれん……。」


あぁヤバい、もう俺頭がおかしくなって、ノースでもいいかとか思い始めている。


あれ、こいつこんな可愛い顔してたっけ……?

こんな、おっきな目に整った顔立ちで……まるで女みたいな……。


「げ、元帥……!?」


堕ちかけた意識が、ノースの戸惑ったような恥ずかしいような声で取り戻されていく。


前を見れば、さっきの半分くらいの距離にノースの顔がある。


「すまん……ちょっと、先頭の方行ってくる……。」


まさか、男の部下相手に発情するなんて……。

俺はまだまだ未熟だったみたいだ。


俺は頭を押さえながら、フラフラと先頭に向かった。




「どんな感じだ?」


「元帥!! って、大丈夫!?」


俺が先頭で舵を取る部下に声をかければ、振り返った部下が心配する声上げる。


「あぁ、なんとか……」


「辛いっすよね。分かります……俺もここから数ヶ月と考えると、死にたくなります。」


俺と部下は笑い合う。


俺だって、筋肉ムキムキの男相手に発情することはない。


ノースが異常なだけ。


「俺が舵取るよ。お前は航路確認してくれ。」


「おいっす。」


俺が言うと部下はピシッと敬礼をして、船の後方へと走っていった。


「はぁ、なんとか落ち着けるな……」


舵を取るというのは集中力が必要で疲れるが、それと同時にとても楽しいのだ。


俺らは日常的に握るから、これを握ると落ち着くってのもある。


「ここから北まで約10日、戦いが未知数で、一番近くの港でも一週間。3週間は確定だろ……。」


それ以外にも色々あるから、全部合わせたら二ヶ月弱はかかる。


一番近くの港に寄るのも定かではないから、最悪三ヶ月。


ヤッベェぞ


「う〜み〜は〜ひろい〜な〜、お〜

き〜い〜〜な〜〜」


俺は悲しみの涙を流しながら、海の歌を口ずさみ、船を操縦して行った。


海風が冷てぇぜ。

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