第19話 口論の末……

氷の上を突き進むこと数時間。

外が暗くなってきた時間帯。


今時期北に向かう船は少なく、海にいたときでも一日一隻出会うか出会わないかだったが、氷の上に上がれば誰とも会うことはない。


そりゃそうだ。そんなポンポン飛べる船が出てきても困る。


「もうちょいで着くぞー!!」


俺が眠気と戦っていると、後ろで船長がそう叫んだ。


どうやら目的の青の神剣のある場所のほんの近くまで、氷が張っているみたいだ。


「元帥、代わります?」


着いてからのことを考えているのが眠っているように見えたのだろう。補佐をしてくれていた団員が尋ねてくる。


「いや、大丈夫だ。お前も休めよ」


俺と同じように、補助の役もずっとやってるからな。

俺は時たま休憩してるから、何ならそっちのほうが辛いまである。


「み、見えるよ!!」


船の上の部分に立って前方を見ていた船長が叫ぶ。


見えるって……何が……?


俺がそう思って顔をあげると、


「うおおっ……!! す、スッゲェ!!!」


そこには、巨大な渦巻きが広がっていた。


まるで海にポッカリと穴が開いたかのように海面が沈み、その周りを荒々しい潮たちが巻いている。


これが、渦潮…!! 北でしか見られない景色か!!


「スゲェな……」


長いこと船乗りやってきたが、こんなの初めてだぞ。


これはどうなっているのだろうか。


海が渦を巻いている。それはまるで人間を拒むかのように、その真ん中に何かが隠されているかのように、不自然にそこだけが渦を巻いていた。


「これ、マジでツッコむんですか!!?」


俺は船の上を見上げて、船長に尋ねる。

まだまだ遠いここからでもわかる圧倒的水量と水圧。こんなんに巻き込まれて、マジで生きていけんのかよ……。


「作戦変更!! 船ごとは行かずに私と君とあとノースでツッコむ!!」


若干ビビる俺に、船長も普段とは違う張り詰めた表情で言う。


やっぱ怖いよな。海の怖さを知ってる分余計に……。


「ダメです! 船長は残ってて下さい!」


俺は船長の作戦に反論する。


三人で行くのが最善に思えるが、今回ばかりはそれは悪手だ。


「なんで!?」


船長が若干怒りを込めて問を投げる。


七つの大財の一つを手に入れる。

そんな一世一代の大舞台に自分が行けないとなると、悔しいのはわかる。


行くのは怖い。死ぬかも知れないから。

けど、行かないのも悔しい。取り逃すかもしれないから。


そんな複雑な心境の中、彼女は様々なことを考えているのだろう。

それは、俺もおんなじだ。


「俺と船長が行ったら、もしものとき帰りの船を導くやつがいないし、この海賊団まとめる人がいなくなります!! 船長は居てください! 俺とノースで行きます!!」


船長が行きたいのはわかる。けど、行かせるわけにはいかない。


それはこの海賊団の元帥として。また…………一人の男として。


「くっ……じゃ、じゃあ君が……」


「俺がいなくてどうするんですか? 戦えるのは主に俺でしょう?」


俺が居ればいいと言いかけた船長に、俺はすぐさま反論する。


いつもならこんなムキにならない。けど、これはいつもと違う。マジで、命がけだから。


俺らの判断で、この海賊団百人余りの団員の未来が変わるのだ。


「ぐぅ……わ、分かったよ!!!! 大人しく待ってるわよ!!」


船長もそれを分かっているのだろう。悔しげに叫んで、船の後方に走っていった。


「元帥……」


船長の後ろ姿を眺める俺に、ノーズが声をかける。


「ノース、お前も無理しなくていいぞ。マジで死ぬぞ」


「元帥、あなたは優しすぎる。」


俺がおちゃらけながらも注意すると、彼は斜め下にうつむいて、苦しそうにつぶやいた。


「…………大事なんだよ、なんだかんだ言ってあの人が」


「僕も行きますよ。行かないわけ……無いでしょう。僕だって、大事な人を見放せません……!」


俺の囁きは、ノースの覚悟で遮られた。

コイツも、守りたいやつがいるんだな、


「そうか……準備しろ。すぐだぞ。」


俺はノースにそう言って、彼の肩を軽く叩き、準備に向かった。

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