第12話 俺を……イかせて下さい
「俺は……もう駄目かもしれん……」
公園のベンチに座り込んで、俺は弱々しくつぶやいた。
虫の音にも負ける声量の声は、数秒も経たずに消えてゆく。
「なんで……なんでなんだ……!! 神は、俺を風俗に行かせてくれないのか!!?」
俺は拳を痛いほど握りしめて、ベンチに叩きつける。
気分高まってスキップなんかしながら行った、表の風俗。
俺が扉を開けようとした瞬間に、中で酔っぱらいの客が暴れるトラブルが起きて、それの対処でまた詰め所に行き。
三度目の正直と訪れた風俗は店の看板がいきなり落ちてきて、それに当たったおじさんの対処で
ならば飲み屋はどうかと。ただ少し露出の多い服を着たお姉さんがお酒を注いでくれるだけならいいだろうと、そう思って向かったバーは、ボッタクリで前の客が暴れてて、これまた対処に詰め所に行き。
何度も何度も何度も俺はエッチなお姉さんを求めていくのに、会えるのはいっつも引いた目をする保安官のあんちゃんのみ。
マジで何なの。俺にホモになれってか?
いやだね。男にはおっぱいがないもん。そんなん我慢できるかぁ!
「はぁ……もう、どうしてくれようか……」
風俗に行くか?
でもな、どうせ今回も空からなんか降ってきたり、足元に穴あいてたりして結局は詰め所に行くことになるんだ。
もうあのあんちゃんに『あなたどんだけトラブル起こすんですか』って顔で見られるのは嫌だよ。
酒場に行くか? もうエロは諦めて大人しく飲むか?
けどな、ここで抜けなかったら他にタイミングがないんだよな。明日の夜には出航で、明日は船長の用事に付き合わなきゃだから。
このまま出さないで海に出れば、俺は真面目にどうにかなりそうだ。
「うーん、悩みどころだ。」
何故神は、この街は、俺に性の喜びを与えてくれぬのか。俺そんな悪いことした?
あれか、めんどくさいのを断るときに宗教上の理由でって言ってたからか。それは確かに申し訳ない。
けどさ、あれマジで便利なのよ。宗教上って言えば皆そんな深くは追求せずに、あぁそうねって受け流してくれるから。
「もう、大人しく戻るか……。」
俺はカーカーというカラスの鳴き声を聞いて、なんか虚しくなってきた。
夜中の公園で、良い年した大人が抜けないだの出したいだの騒いで、そんなの情けなさすぎるだろう。
もう良いよ、神がそう思し召すのならば、その通りにしますとも。宗教上の理由で
俺は微妙に元気な息子とともにトボトボと家路についた。
◇ ◇ ◇
「ただいま…………ッ!!!」
俺は暢気に帰りの挨拶をしながら扉を開けて……止まる。
「せ、船長」
ゴクリという生唾を飲む音が聞こえてくる。
猫に小判。豚に真珠。馬の耳に念仏。そして、ナニもできない男に無防備な美少女。
船長は酒瓶を抱きしめながら、布団の上で無防備に寝ていた。
もうかなり寝始めてから時間が経っているようで、彼女の服は寝返りによってめくり上がり、体のラインがくっきりとあらわになっていた。
どうする……どうする…………?
俺の思考は急速に回転を始める。
どうすると言っても、ナニもしてはいけないのだけど……考えざるを得ない。
もし俺に勇気があれば、仮に俺に覚悟があれば。ここで船長を…………。
いかんいかん、駄目だ。そんなことを考え始めたら終わりだ。
合意ないもとで襲うなんて、そんなの海賊らしくない。誉れを持ち、誇りを保つのが海の男。
己の欲望のまま襲うのは、俺らの最も嫌うもの。
ダメだぞ俺。しっかりと、自我を保て。
どんなにムラっていても、どんなに溜まっていても超えてはいけない一線というのは必ずある。
欲望を抑え、理性を保て。
俺は人間。出来る子。元帥なのよ。
大丈夫。耐えられる。俺の息子は我慢のできる子だ……。
「ふー……ふー…………おやすみなさい」
俺はなんとか自分の欲望を抑えて、布団には入らず床に寝転んで目を閉じた。
「寝よう。出せなかったのはしょうがない。今までずっと耐えてきたんだ、これからも行けるはずだ。もう大丈夫。俺は我慢のできる男。」
自分で自分に言い聞かせて、俺は寝ようとする。
…………ヤベェ、眠いよりムラムラが……。
三大欲求で普段なら睡眠が勝つのに、今ばかりは性が圧倒的に勝ってしまっている。
あぁ出したい出したい出したい、今からでもこの宿を飛び出して風俗に行くか?
いやダメだ、そんなことしたらまたきっと何かトラブルに巻き込まれて詰め所行きだ。
かと言って部屋の片隅で処理するってのも……なんかそれは違う。
それは、今まで我慢してきた俺と俺の息子があまりにも可哀想すぎる。
やっぱり、最善はこのまま寝て何事もなかったかのように生きていくこと。
寝てる間に出してしまう。所謂、夢精するんじゃないかという心配もあるかもだが俺に限っては大丈夫だ。
今までの人生で、どんだけムラムラしてても、寝てる間に出したことは一度もない。
本当に不思議だが、ないのだ。早漏でも遅漏でもないのに。
今までの経験則からして寝てる間に出すことはない。つまり、寝てしまえば勝ちなのだ。
「素数でも数えて、眠ろう」
俺は月明かりに照らされる部屋の隅で、そうつぶやいて数え始める。
えっと、1,2,3,5,7,9....って、9は3の二乗だ。
てか、1って素数だっけ?
確か素数ってのは………。
そんなことを考えていたら、いつの間にか意識はなくなっていた。
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