第2話 敵艦奪取

かつての大陸、大海。


その全てを支配した帝国が崩壊したことにより始まった、陸と海を巡る戦い。


陸での戦いは、国家という統治機関によって、すぐに治まった。


しかし、安定せずに形を変え続け、日々人類に牙を向き続ける大海を制覇するものは、未だに現れていない。


今も続く、その大海を賭けた人々の争いを、文化人たちはこう呼んだ。


――――大航海時代、と。 






荒波の中を進み行く“勇気”


味方を守り海に骨を埋める“覚悟”


胸一杯に詰まった“希望”


赤の“羅針盤”


青の“神剣”


金の“財宝”



その7つを手にしたものが、海賊の中の海賊




―――――海賊王に成る――――










そんな話を昔から聞かされてきた。


海賊とは悪いものであり、滅すべきものであると。


海賊とは真逆の立場にいた俺が、今は4大海賊に数えられる海賊団でそのままの階級で、こんなふうに色んなやつ倒してるんだから、人生わかんねぇもんだよな。


俺はそんなことをぼんやりと考えながら、敵船を駆け回る。


俺達『スペース海賊団』の戦い方は毎回変わる。けれど、基本の型というものがあって、今回はその基本中の基本となる作戦だ。


敵船から程よい距離で漂い、大砲を相手に撃たせる。


けど、大砲の飛距離的に当たるか当たらないかのギリギリを陣取っているので、それが当たったことは一度もない。


そして、相手の大砲が球切れになったり、補給に入ったら、急接近して真横に船を寄せる。


そしたら俺の出番で、俺が相手の船に飛び乗る。

俺たちの船が離れれば、そこからは俺の独壇場。


俺はとある事情があって、殺生が禁止されてる代わりに、戦いにおいて負けることはないほどの圧倒的な力がある。


対海賊用の力……がな。


それを持ってして、相手の船の団員を片っ端からぶっ倒して縛り上げたら、あとは煮るなり焼くなり好きにどうぞって感じ。


この戦法は相手が大規模だとさすがの俺でも倒せなくなるので使えないのが、唯一のデメリットかな。


今回の目標は船の奪取。確かに小規模海賊団の割にはいい船してるわ。


俺はあらかた倒し終わった敵船の上で、舵を握りながら言う。


ざっと十分ちょいで片付いたな。


もっと早くできなくもないけど、そんな鬼気迫ってるわけでもないし、安全性のが大事だからな。


「ふんふふーん」


「クソぉ、死ねぇっ!!!!」


俺が鼻歌交じりに船の動力源に電気を込めだしたところで、背後から血走った目の男が飛び出してきた。


その手に握られるのは、キラリと光る銀色の刃物。


来てるお洋服から推測するに、この船の船長かな?


「若くてお盛んなのは結構だが、喧嘩する相手くらい選んだほうがいいぞ。」


俺はブレッブレなそのナイフをひらりと交わして、男に回し蹴りを叩き込んでへばらせる。


「よいしょっと。」


俺は船の動力源が光ったのを確認して、男を軽く縛り上げる。


船ってのは元来、漕ぐか帆を立てるかで動くもんだ。


しかし、百数年前に画期的な発明がなされた。


俺もよくわからんけど、ざっくりいうと極北で採れる貴重な金属に電気を通すと、内部でなんかすごいものがどうにかなって、回転しだすっていう。


そんなうまい話があるかと思うが、これがあるんだな。俺が生まれた頃には当然のようにあったから、疑いもせずに生きてきたけど、よく考えれば超すごいよな。


しかもこれは、石さえあれば何度でも使えると来た。


これは使うしかないということで、お高い船は大抵がその石で動いている。


「科学ってスゲーな」


俺は小並感満載の独り言をつぶやいて、目の前の扉を蹴破った。


今いるのは敵船の地下一階。

いや、船だから水下か?


まぁ要するに、船の下の方のスペースな。


本来なら、ここはお宝とかお荷物とかを置いておく場所なのだが……。


「女攫いの海賊団ってか。」


俺は明らかに異様なその部屋の様子を見てつぶやく。


扉を開いた先には、10メートルほどの廊下があって、その両脇には


胸糞悪いったらありゃしない光景。


さすがの俺でも、こんなのの裸を見ても発情しない。浮かんでくるのは、怒りのみ。


こんなとき、死という鉄槌も、拷問すらもできない自分の力が嫌になる。


本当に、難儀なものだ。


ただ、幸いなことにみんな虚ろな目をしているが、息はありそうだ。


「俺は敵じゃないんで、まあゆっくりしてくださいな」


俺は両手を上に上げて害がないことを示しながら、女の人達の手足の拘束を解いていく。


やせ細って見る影もないが、いるのは皆若くて美しい女たちばかり。


この海賊団は最近名を挙げていた若手の一つで、最初は俺も関心していたのだが……。まぁ、力に溺れちまったんだな。


いつからか不穏な噂が立つようになり、海賊らしい男どもが、女さらって犯すことしか頭にない猿に成り下がった。


海賊として海に出るやつには、大きく分けて二種類いる。


ただただ、己の欲望を満たし暴れるために海に出る、海の賊。


多分人々に海賊と言えばこっちを思い浮かべるだろう。皆が成りたいのもこっちだ。


なんの決まりにも縛られず、ただ自由に大海原を漂い、暴虐の限りを尽くすの蛮


しかし、俺から言わせたら、そいつらはタダの犯罪者だ。


海賊なんて崇高なもんじゃない。


真の海賊たるはもう一つの方。


七つの宝を手にしこの海の覇権を握る、海賊の中の海賊。海賊王を目指すもの。


自分を律し、無駄な殺生はせずに、お宝を追い求める。海を心から愛する、


コイツラは元々、れっきとした海賊だったのに、一度女の味を知ってしまったから、ただの蛮族に成り下がった。


海賊として海に出て、蛮族に成り下がるやつは少なくない。


それだけ、力というのは強烈で、溺れやすいから。


「もうちょっとで、港につくんで。」


俺は女の人達の拘束を解き終わり、そこら辺に置いてあった毛布を申し訳程度にかけてやる。


誰からも反応がないのを見て、こりゃだめかもなと思いながら俺が部屋を出ようとすると、


「あ……りがと…………保安官……さん……」


そんな囁くような声が聞こえた。


保安官というのは、国の海軍の下っ端の呼び名だ。


「……安心していて下さい。」


俺はそうとだけ言い残して、その部屋を去った。


『俺はもう、軍人じゃない』


そんなつぶやきは心のなかで響いて、誰にも聞かれることなく消えていった。

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