ヤンデレ誕生短編「理解者」

西城文岳

本編


 俺はどうしようもない人間だ。


 人として生きる事に嫌気が差し、それをいつも隠している。

 見栄えの良い人間として暮らし、当たり障りのない返事をして普通を演じる。

 いつもナニかに飢えている。

 食欲、非日常、愛。

 獣のように好きな時に食事をし、好きなときに遊び、好きなときにまぐわう。

 そんな欲求が絶えず俺の中を巡る。

 人間として生きる事になんの価値も見いだせていない。

 獣として自由に生きた方が断然楽しい。


 理性的に行動しているように見せ掛け、それは全て本能的な欲求の為の計算。

 自由に、本能に生きる為に理性的になる矛盾を抱えた社会で生きる檻の中の獣。


 俺はそんな人間だ。



 ______________


 私は酷く強欲な女だ。


 子供の頃から親は欲しいものは何でも買ってくれた。

 子供の頃から成績はオール5だった。

 友達もたくさん出来る人柄を演じた


 完璧な人間になるため、ありとあらゆる事をして来た。

 欲しいものを取れるだけ取ったはずの私は満たされなかった。

 それが何かは解らない。


 それがわかるまで欲しいものを私は手に入れる。


 ______________


 俺は彼女と出会った時、俺は人生で最悪な日だと思った。


 自分の同類を見ているようだった。


 彼女は隠しているようだったが俺にはわかる。

 欲望をあるがままに向け、やりたいことをし、好きなように生きる。

 金に力を言わせ、やりたい放題する彼女を見ているのが嫌だった。

 過程を省き、結果だけ見るとそれは、俺が歩みたかった人生そのものではないか。


 自分には無い力を振りかざして自由に生きるのを見ていると、嫉妬で狂いそうになる。


 だが彼女は俺を見逃してはくれなかった。


 ______________


 彼を見つけた時、私は人生最高の日だった。


 手に入れた富と名声に集まる人間たちにもてはやされる中、一人だけ一切私を見ないその男が私は欲しくなった。


 最初はただの強欲だった。

 何としてでも彼を私の信者の一人にしようとした。


 だが彼は私が何を差し出そうとしても一切受け取らない。


 ______________


 あの女は俺を手にしようと何度もやってきて、あろうことか俺に貢いできた。

 俺は自由に生きることが欲しいのであって金なんて引換券なんざいらない。


 頼むから関わらないで欲しい。


 そんな紙切れみたいなゴミによる束縛より、自分の生きたいように生きれる世界が欲しいのだ。


 ______________


 彼が欲しいのは自身の自由だと言った。


 私にはそれがどういう意味なのかさっぱりわからない。

 ただその難題は私を熱くさせた。

 彼に付き纏い、何を求めているのかを探った。


 下らない勉強よりもその追及は楽しかった。


 ______________


 だが女は執拗に俺を追い回す。


 そんな女に嫌気が差しつい口走ってしまった。


「なら、お前の純潔をよこせ」と。


 自分なりの嫌がらせだった。

 女は社会的に見ればかなり地位の高い存在だろう。

 そんな女が下にいる身分の男に簡単に股を開く訳がないとタカをくくっていた。


 だがそれが一番の間違いだった。


 ______________


 彼がそんな簡単な事を求めているとは思わなかった。


 迷わず彼を家に連れ込み私の身体を与えた。

 獣のように乱れた私たちはその時一番満たされていただろう。


 だけどその中で彼は私の何を見ていたのだろう。

 いや、一体皆は私の何を見ていたのだろう。


 富、名声、力。


 欲しいがままにして来た。

 それを与え、信者にして来た。


 それは私が親からの貰ったもの。それは私自身ではない。


 いままで私を慕っていた皆は私は自身では無く、私の持っていた力を見ていたのだと気付くにはそう時間は掛からなかった。


 じゃあ、私って一体何?


 ______________


 無償で与えられたそれを受け取っていいものか悩んだが、そんないい女を抱けるの逃すのはもったいない。


 その中で俺は彼女から離れるのが自由だと言えるのか疑問に思った。


 欲しいがままに手に入れた女と居れば自分の欲しい環境が手に入るのではないかと。

 彼女から離れていたのはただ羨ましかったから。

 それをすんなり受け入れればなんの問題もないのでは?


 このまま彼女の懐に潜りこもうか悩んだ時、俺は突然泣き始めた女に戸惑い狼狽えた。そんな彼女を俺はただ優しく抱きしめ、黙って聞いた。


 どうしてか彼女を見捨てられない。


 ______________


 私は内に渦巻く不安をぶちまけた。


 いままで取り繕っていた態度を壊し、あるがまま子供のように。

 ただ感情的に、何も考えず。


 それをただ彼は優しく抱きしめてくれた。

 黙って優しく。


 私は、この人は私の力では無く私自身を見てくれていると気付いた時、彼以外何もいらないように感じた。


 ______________


 そこから女の変わりようは凄まじかった。


 今まで友好関係を捨て俺だけに執着し始めたのだ。


 一応、彼女との約束で俺は彼女と行動するが信者にしていた様な、もてはやす様に強要することも無く、ただ常に俺のそばにいる。


 俺が言えば躊躇なく金を出した。俺が言えば躊躇なく身体を差し出した。彼女は他の者を一切見ずただ俺だけに従っていた。俺自身、不気味に思ったが、彼女はただ俺の事を見つめ頬を赤らめるだけ。ベッドの上で見せたギャップが俺の本能を高鳴らす。


 彼女の信者は酷く狼狽え獣のように襲って来たが彼女がそれを制圧する。

 襲って来た者たちはいつの間にか見なくなった。

 じきに誰も何も言わなくなった。



 俺は今日も好きな時に彼女と食事をし、好きなときに彼女と遊び、好きなときに彼女とまぐわう。

 ただ一匹の獣として。

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