第58話 ルアーナと私は似たもの同士。
「はぁ??? 訳がわからない!」
床にへたり込みながらルアーナは喚いた。
「冗談じゃないわ!! 今更そんな惨めったらしい生活なんかしたくないわ。ちゃんとした食事も、綺麗なドレスもないなんて絶対に嫌!! フェリシア、さっさと私を殺しなさいよ!!」
一体何を言っているのだとあっけにとられてしまう。
命より面子よりも、贅沢が大事なのか。
エリアナへの嫉妬から後先考えずに殺人へ手を貸すルアーナだ。なくはなかった。
(それほどルアーナにとっては豊かな生活が大切だったということね)
温かい食事、快適な住まい、自尊心が満たされた生活……。
ふと頬に涙が伝う。
「涙?」
なぜ?
心が痛い。
私の意思ではない。これは……。
(フェリシアの体の記憶?)
私が憑依する前、フェリシアも庶子であることで辛い目にあってきた。
自分には何の咎がないにもかかわらず、家族には邪険に扱われ存在しない人間だった。
故に貴族でありながら貧しい生活を強いられていたのだ。
(フェリシアの体はルアーナに同調するの?)
境遇を思えば分からないでもない。
満たされず手の届かないものが手に入った喜びはエリアナの想像以上に違いない。
でも。
私は涙を拭い、心を奮い立たせる。
「……冗談じゃないわ。どうして私があなたを殺さないといけないのかしら。あなたの血で私の屋敷を汚すなんて最低のことはしたくないわ」
「あんたの屋敷??!」
「そうよ。私はフェリシアでエリアナだから。ヨレンテは私のものよ。この屋敷もマンティーノスも全部私のものなの」
ルアーナは目を見開く。
「お姉様ですって? 何を言ってるの?お姉様は亡くなったわ。あなたはフェリシアでしょう?!」
「ええ、私はフェリシアよ。でも中身はあなたたちが殺したエリアナなの」
「は?? 頭おかしいんじゃないですか??」
「ふふ。そうかもしれないわね」
正気じゃないのはわかっている。
今ある現実は、あの御方にすがっておこった奇跡だ。
(狂っているのはお互い様じゃない? ルアーナ)
私たちはどこか似ている。
お互い頭のネジが外れてしまっているのだ。
ルアーナは私を殺せば贅沢な暮らしとヨレンテが手に入ると妄想を巡らせた。
立ち止まって考えればわかるものだろうに。
欲に目がくらんだせいで正確に捉えることすら放棄し、許されない願望に縋った。
(それが認められると信じているのも)
正気じゃないと思うんだけど。
「ルアーナ、あなたは気狂いだって私のことを言うけれど、あなたもどうしようもないんじゃない? 分不相応な願望を持ったりして」
「……一緒にしないでよ」とルアーナは立ち上がり、ドレスの埃を払う。
「私はあなたとは違うわ。あなたみたいな貴族のお嬢様ではない……なりたかったけど成れなかったわ。悔しいけど生まれはどうにもならないのね」
ルアーナが広間に続く戸を見つめた。
ぎいっと小さく軋むと扉が開きサグント騎士団の制服を着た男が数人なだれ込んでくる。
彼らは何も言わずにルアーナを取り囲んだ。
少し離れたところに腕組みをしたレオンの姿がある。
レオンのこちらを眺めるヘーゼルの瞳は冷たく輝き、口元には不敵な笑みが浮かんでいた。
ルアーナは小さく息をつき、
「フェリシアさん。約束守ってくださいね」
「約束?」
罪を軽くしてほしい、だったような。
「あぁそうね。忘れないようにしておくわ」
減刑は私の願いでもある。
ルアーナとホアキンが苦しみながらただ生きていくために、死罪にだけはしないように、ね。
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