「限界かくれんぼ」
天都 うさぎ
~短編~
「限界かくれんぼ」
それは、とある遊園地にあるアトラクションだ。
六畳にも満たない部屋の中でかくれんぼをするアトラクションらしい。
そして、このアトラクションの最大の特徴は……
「人が帰ってこないことがある」
そんな場所に俺たちは足を踏み入れてしまった。
ただの悪ノリだったんだ。
連れに言われて、興味本位で入ってしまった。
かくれんぼをする部屋は思っていた何倍も小さかった。
部屋にかろうじてあったのは、棚などの最低限の家具、きれいに整えられたシングルベッド。
そのほかには壁にクローゼットがあったり、カーテンのついた窓があった。
部屋を見渡すと、あるものを見つけた。
ドア……?
そう、ドア。
もちろん、今入ってきたドアではない。
俺はおもむろにそのドアを開く。
その先にあったのは……!
トイレだった。
なんとも場違いな気もしたが、遊園地に場違いもくそもないか。
とても狭いトイレだった。
かろうじて人一人が入れるかどうかの大きさ。
このアトラクションのルールはこうだ。
まず、俺たちはこの部屋の中で「鬼」に見つからないように隠れる。
「鬼」は一分後にこの部屋に入ってきて、俺たちを探し始める。
そして、十秒間俺たちを探した後に、部屋の外に出ていく。
もし、「鬼」に見つかったとしても、何もされはしない。
が、「鬼」はこの部屋に三度入ってくる。
そして、三回とも見つかったその時……
部屋の外に連れ出され、そのあと帰ってくることはないという。
「なあ、どうする?」
俺は連れに尋ねた。
「どうするって、隠れるに決まってんだろ」
「いやそれはそうなんだが」
こいつの考えなしにはあきれる。
とりあえずどこに隠れるかだが……
こうして考えている間にも「鬼」がやってくる時間が迫ってくる。
俺は窓のカーテンの裏に隠れることにした。
窓台の広さは決して大きくはないが、奥行きがあったので、小柄な俺なら丸くなれば座ることができた。
窓の外は真っ暗で、日光が差し込んでカーテンに影ができる心配もなかった。
「お前はそこにするのか、じゃあ俺はここにするか」
そう言って連れはクローゼットの中へと入った。
正直、俺たちはこのアトラクションを甘く見ていた。
出入り口のドアが開く音がする。
間違いない。
「鬼」が入ってきたんだ。
体をこわばらし、息をひそめる……
なんて、してる隙もなかった。
ドアを開いたやつの足音はまっすぐにこっちにやってきて、カーテンはこじ開けるようにして開かれた。
目にしたのは真っ白い肌の黒髪の女性。
笑っていた。
叫ぶ隙も無かった。
やつはそれから真っ先にクローゼットへと向かい、扉をこじ開ける。
そうして、一回目は終わった。
「なんだあれは……」
情けなくもそんな言葉しか出なかった。
そして、
冗談だと。
本当だとしても楽勝だと。
そう思っていたものが意識に出る。
「三度見つかれば、帰ってくることはない」
連れも同じことを思っているようで、考えることは一緒だった。
何としてでも生きて帰る。
俺はもう一度部屋の中を見回した。
そして、あるものを発見した。
天袋というのだろうか。
それにしては少し大きいような気もした。
この部屋は狭い。
が、高さはそれなりにあった。
俺ならぎりぎり入れるだろうこの戸棚を見て思った。
これだ、と。
「そういえば」と連れがクローゼットを指さす。
どうやら服のほかにもなにかあったらしい。
使わない手はないと思った。
来る二回目の襲来。
俺はさっきの戸棚の中に。
連れはシングルベットの下へと潜っていた。
結果は惨敗。
だが、今回は見つかること前提だった。
それに、一回目は四秒で全滅だったが、二回目は七秒で全滅だった。
「鬼」が戸棚を開けるのに一秒ロスすることも分かった。
作戦通りに行こう。
そして、三回目の襲来。
敵がドアを開けて目にした光景は……
部屋全体に張り巡らされた「トイレットペーパー」だった。
そう、俺たちはトイレットペーパーをクローゼットの中にあったガムテープで至る所に張り付けまくったのだ!
それはまるで怪盗映画の警報装置のように!
二回目のあれはフェイクだ。
隠れていたのではない。
隠れながらトイレットぺーパーの準備をしていたのだ!
コトンッ
窓の方で何かが落ちた音がする。
トイレットペーパーの「芯」だ。
もちろん敵はそちらへ向かう。
そしてトイレットペーパーが邪魔をする。
四秒のロスだ。
敵がカーテンをめくる。
が、もちろんそんな場所にいるはずもない。
タンッ
クローゼットの方で何かの音がする。
「ハンガー」だ。
敵は急いでそちらへ向かう。
二秒のロスだ。
敵がクローゼットをこじ開ける。
そして、連れがそんな場所に隠れるはずがない。
ならばと敵が戸棚を開ける。
そこには……
布団があった。
そう!かくれんぼは見つからなければいい!
つまり、敵の視界をふさげばいいのだ!
敵は布団を動かそうとするがそうはいかない。
俺は必死に布団を引っ張り身を隠す。
ふと敵が布団から手を放す。
敵は別のところへと向かった。
そう、トイレ。
敵は必死にドアノブをひねる。
でも……
使用中のトイレは入っちゃダメなんだよ。
ドアノブは全力で捻り返される。
この時だけは連れの馬鹿力に感激するよ。
そうして、長い戦いの末。
俺たちは生きて外に出た。
思えばあの時の空気が一番うまかったよ。
「キャラメルポップコーン食おうぜ」
「おっいいね」
ー完ー
「限界かくれんぼ」 天都 うさぎ @usaginotail
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