第14話 ムタくん、コンビニを開くッス!


 あかりさんからの手紙を届けてくれた、エルバースの海兵隊にお礼を言って別れる。

 この世界に来てから1年が経った。

 俺はコンビニのオーナーとして、店を拡大していきたい。自分で金を稼いで金持ちになれば、あかりさんも俺に振り向いてくれる――そう、信じている。


「何が書いてあるんスかね?」


 自然と笑みが浮かぶ。

 どんな内容だとしても、あかりさんから手紙が来るという状況が嬉しい。こんなこと、地球にいたときにはありえないことだ。連絡先さえ知らなかったのだから。


「……なるほどッス」


 なんでも、孤児を助けるためにコンビニを設置したいとのことだった。

 コンビニの食糧を孤児たちに与えて、食糧状況を改善するのだ。


 設計士との話はすでに終えているので、あとは建物を建ててもらうだけ。これはしてもらっておいたほうがいいのだろう。

 孤児のために紛争地域に店を出すことにはなったものの、エルバースにも出すというのは変わらない。


「行くッスか。船の切符買って……着替えとかいるッスかねー」


 そう言えば、最後にしてから二日だ。

 明日になれば禁断症状が出るから、明日の朝一番か、今日の夜にはやることやってしまわないといけない。あかりさんの体は、そうなってしまっている。


 ……好きな人にそういうことをしてもらえるのは、嬉しい反面、虚しい。


 だって、相手はただただ性欲を発散させるため。そして、生きるためにしているのだ。そこに恋もなければ愛もない。

 少し気分が沈んでしまい、足取りが重くなる。だけど、これからあかりさんに会える、頼りにされていることが、やっぱり嬉しいのだった。



 エルバースからゼァガルド王国の首都に出ている蒸気船に乗り4時間弱。

 ゼァガルド王国の首都で二人乗り馬車を購入して3時間強。


 昼前にはエルバースを出たものの、ようやく到着したころには日が暮れていた。

 時間は20時を少し回り、議会場というものに入っていく。エルバースは多くの人で溢れていたけど、ここは全然だ。閑散としているし、家の中から窓を少し開け、俺のことを様子見している。

 戦争中に見知らぬ人が来たら当然の反応だ。


「貴様、何者だ」


 案の定というべきか、現地の人っぽい人に出くわし、止められる。


「俺はムタッス。あかりさんはいないッスか?」


「む。あ奴の知り合いか。勝手に孤児を雇いおって……。我が部族も飢えているというのだぞ」


「あー……えっとッスね、結構やばいッスか?」


「明日の飯さえ手に入れることが難しい。それに、我が部族の土地はすでに占領されたのだぞ! このような教会なんぞに改装しおって! そのような暇があるなら早く軍を動かさんか!」


 俺に言われても困るッス。

 そう言いかけて、奥にいるあかりさんを見つけた。

 こいつ、めんどくさい。

 軽く会釈して横を通り過ぎると、「まったく!」と言って議会場から出て行く。

 とはいえ、俺が想像したよりもよっぽど悪い状況らしい。コンビニが一軒建ったところで、大した解決にもならない。


 あかりさんはどうするつもりなんスかね。


「あかりさん!」


「ムタくん! 来てくれたんだ!」


「もちろんッスよ。遅くなって申し訳ないッス」


「今日中に来てくれてホントに助かったよ。早速で悪いんだけど、コンビニの設定を……」


「任せてほしいッス!」


 あかりさんが上目遣いで俺を見る。

 そんなあざといことしなくても、俺はあかりさんの指示に従うッスよ!

 あかりさんに付いて行くと、議会場を出て隣の建物に入っていく。もともとは何かの店だったのが、廃業でもしてあかりさんが購入でもしたのだろう。

 その証拠に、棚や会計台なんかが残されている。日本ではこういうのを、居抜き物件というのだったか。


「これなら手早くできると思ったんだけど、どうかな?」


 あかりさんに頷いて、俺はすべての部屋を見ていく。2階もあるようだけど、2階は居住空間のようだ。店、というわけではないと思う。

 だけど、俺に自分の部屋はいらない。俺だけなら0号店から行き放題帰り放題だからだ。


「2階も店にして、置く種類を増やすッスか……それとも倉庫にして数を絞って在庫を増やすッスかね……」


「とりあえず食糧を大量に置きたいから、倉庫にしてほしい、かな」


 あかりさんがそういうなら、そうしよう。


「その孤児? に店番とか頼めるんスよね」


「うん、こっちで頼んでおくから、安心して!」


 あかりさんがぐっと手を握って力強い返事をもらう。


「じゃあ、始めるッス。一旦外に出てくださいッス」


「うん。お願いね」


 あかりさんが店から出たのを確認し、俺はオーナーとしてこの場所をコンビニに設定する。みるみるうちに店が綺麗になり、明かりが灯される。

 会計台にはレジが設置され、在庫管理ツールのタブレットがぽんと手に落ちてきた。

 タブレットをちょちょいと操作して、麦やパン、水なんかをどんどん仕入れていく。この辺りでは水も有料で売っているし、水不足になりがちらしいので。

 0号店では現代日本のものがたくさん仕入れられるけど、1号店からはそれができない。でも、どこからか仕入れてくる麦やなんかを売ることができるのだ。これを仕入れるためにはポイントが必要で、タブレットには残高ポイントが記載されている。


「店を作るのに10000ポイント、麦1㎏で1ポイント、100エルダ1ポイントッスから……」


 100万エルダくらい売り上げれば、開店資金を回収できるだろうか。

 ただ、食糧を仕入れてもポイントが減るだけでエルダは減らない。現実ではすべての現金が利益になるのだ。


「やっぱりやばいッスね、このシステム……」


 しかも、単価の安い麦ばかり売っていてもポイントにならない。せめてパンや水をまとめて買ってくれないと、ポイント上は赤字が続いてしまう。


「あかりさん、終わったッスよー」


 タブレット片手に店から顔を出す。

 あかりさんが俺に気付くと、笑顔で「ありがとう」と言ってくれた。


「どうしたの、ムタくん?」


「なんでもないっすよ」


 かわいい。破壊力抜群の笑顔だった。

 その笑顔が見られただけで、俺がここまで来た甲斐があったものだ。


「じゃあ、その、ついでにいいかな?」


 あかりさんが少し申し訳なさそうに、手をもじもじする。


「こちらこそ、お願いするッス」


 できたばかりの店の2階にあかりさんを連れ込んだ。

 抵抗もなく、慣れた手付きであかりさんを脱がしていくと、あかりさんの手が俺の股間に触れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る