父の世界を覗いてみたい

シヨゥ

第1話

 実家に戻ると決まって亡き父の部屋に入ることにしている。父の部屋というよりは書斎と言い表した方が適当だと思う。それぐらいに本が収蔵されていた。

 漫画に小説、ビジネス書に学術書、どこで見つけた来たかわからない古書までありとあらゆる本が僕を囲むこの空間で思い出すのは父の言葉だ。

「本を読みなさい。勉強をしなさい。学びなさい」

 何度言われたかわからないこの言葉。遊びたくて遊びたくて仕方がなかった僕は嫌だ嫌だと言っていたような気がする。そしてある時こう質問したんだ。

「なんで学ばないといけないの?」

 理由もわからずに学べ学べと言われても学ぶ気になれない。学べと言うその父の言葉の理由が知りたかったんだと今になって思う。当時は頭ごなしに言ってくる父への反発でしかなかったが。そんな僕に父は少しと考えるとこう言ったんだ。

「学ぶことで世界が広がるからだよ」

 そしてこう続ける。

「学ぶことで知識を増やせば理解できることが増えていく。例えば雲。学んでいなければそこに雲というものがある。それだけで終わりだ。だがなんで雲ができるのか。それを学んでいれば雲がある理由を理解できる。つまりだ。学ぶことでいろいろなことを深堀して考えることができるようになる」

 こう説明されてもぼくにはピンとこない。それを察したのだろう。父はさらに続ける。

「お前が好きなゲーム。これがどのようにしてできているか。どのようにして動いているのか。学ぶことでそれが理解できる。理解できるということはゲームを遊ぶだけじゃなく、創ることもできるようになる。できるようになった後と前を考えてみろ。見えている世界の幅が広がっただろ? だから学ぶために本を読みなさい。勉強をしなさい」

 たしかに、と思った記憶がある。いやそう思ったからこうして飽きずに本を読み漁る大人になったのだ。

 僕はまだ父親の部屋にある本の半分も読めていない。父親がこれ全てを読んだかは定かではないがすべてを読み切ったとき父親と同等の世界を手に入れたことになると思う。

 父親が見ていた世界を見るために今日も僕は本の虫になる。それが父親を超える唯一の手段だと思うから。だから僕は学ぶことを止められないのだ。

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