第49話 別れ

ドラゴンの前に、ジャイアントが現れ、雄叫びを上げる。すぐ後ろに、リタとハンドもやってくる。

ソロモンが遠くから叫ぶ。

「おーい、リタ、やつをここの地下に押し込むんじゃ!」

リタがゼスチャーで、ゲートに押し込むのだと教える。

両手を振り上げ、毛を逆立て、大声で叫ぶジャイアント。

それを見て、ドラゴンは、動かなくなったテュフォンから離れて、近づいてくる。

ジャイアントは、ゲート前に降り、ドラゴンを待ち受ける。

ドラゴンが不意に長い下を伸ばし、ジャイアントに奇襲攻撃をかける。

のどに命中し、うずくまるジャイアント。。

そこに大きな口で噛み付きにかかるドラゴン。

しかし、不意にものすごい勢いで下から突き上げるアッパーカットでドラゴンの顎を砕くジャイアント。

のけぞるドラゴンに硬化した爪がつかみかかる。

ドラゴンの首を締め上げる巨大な腕。

だが、長い尻尾がムチのようにしなり、ジャイアントの頭を打つ。

もんどりうって、横倒しになるジャイアント。

今度こそはと、ドラゴンの巨大な口が迫る。

だが、近くに止めてあった軍の車両を力任せに持ち上げ、それをドラゴンの口に突っ込むジャイアント。

車両は2匹の巨大生物の間でばらばらにされ、たたきつけられる。

一瞬のにらみ合い、両者とも、息が荒く、限界が近づいている。

ジャイアントが、ふらっとよろめく。

そこにすかさずドラゴンが襲いかかる、と、ジャイアントはさっとよける。そこは、ゲートの前だった。

地下空洞に走りこむドラゴン、うしろから押して、中に突っ込むジャイアント。

ソロモン博士が叫ぶ。

「やったあ、あとは、脱出だ」

リタが重ねて合図する。

「お猿さあん、奥まで行ったら、戻るのよ。わかってるわよね」

軍の指令が冷静に支持を出す。

「地下空洞の爆薬、点火用意だ」

サキシマがリタに支持する。

「リタ隊員、あと25秒で爆発する。急ぐんだ」

「お猿さあん、ほらほら、もういいのよ。よくがんばったわ」

中で大きな地響きがおこり、ジャイアントがゆっくり、ゲートの外に顔を出す。

「よくやったわ。お猿さん、すごい。私たちチームだもんね」

サキシマが冷静に告げる。

「あと14秒だ、急ぐんだ」

「本当によくがんばったわ。さあ、もういいのよ。こっちに来て!」

だが、その時、地下空洞の奥から、再びドラゴンの叫びが聞こえた。

中をまた、見るジャイアント。

「何をしているの。もういいの、あなたは本当によく戦ったんだからもういいの……」

しかし、リタに声をかけられたジャイアントは、あの人懐っこい笑顔を見せると、また、空洞の奥へと進んでいった。

「いいのよ、もう、戦わなくていいのよ。もう充分なのに、なんでええええ」

走り出す、ハンド、追いかけようとするリタを、ソロモン博士が抱いて止める。

その瞬間、ものすごい爆風が、ゲートから吹き出す。

「なんでよ、何やってるのよ。お猿さああああん」

爆風が中から噴き出す。博士もリタも、吹き飛ばされ、倒れこむ。

軍の司令の残酷な声が響く。

「殺菌処理班、二匹の巨大生物は吹き飛んだ。殺菌剤でひとかけらも残さず処理だ」

土煙の中、ハンドがヨロヨロしながら、汚れて、傷つきながら戻ってくる。その手には、ぼろぼろになった、ジャイアントの腕輪が握られていた。

目を覚ましたリタが、その腕輪に気づき、号泣する。

「なんで、何でなのよお、お猿さあん」

ソロモン博士は立ちすくんで、それを見守るばかりだった。


カノウのアジトだったマンション

非常階段をモリヤが駆け上って行く。

そして慎重に様子を伺うと、部屋の中に飛び込み、中にいたシドに襲いかかる。

殴り返すシド。

しかし、銃を跳ね飛ばされてしまう。

「今だ、アチョー」

華麗な中国拳法で、あっという間に押さえ込む。

「犯人を逮捕しました」

そのとたん、エレベーターや隣の部屋から、スワット隊員たちが入ってくる。

「ご苦労様です」

モリヤがスワット隊員にシドを引き渡すが、そのときに小声でささやく。

「やはりこのマンション周辺での、犯人とお前の顔の記録や記憶が入れ替わっている。しばらく、おとなしくしているんだな」

「おかげで命拾いしたぜ。しかし本当の犯人は今頃……」

数時間後、ミノタウロスは、北ブロックの、ゴミの集積場にいた。

広々としたそこは静かであちこちにマッシュルームが不思議な森を作っている。

ゴミが風で舞う中を進むミノタウロス。

ある地点まで進むと、急にハーピーの数百の群れが一斉ににゴミの中から飛び立つ。

そして、船の霧笛のような低い響きが、地の底から吹き上がる。

次の瞬間ゴミの海の中から長大な触腕が伸び、ミノタウロスの腕をつかんで引き寄せる。さらにゴミの山の中から、突然サイの角のようなものが伸び、腹に刺さる。

腹を押さえ、うずくまるミノタウロス。

ゴミの海の中は計り知れず、敵の攻撃パターンも何もわからない。このままではやられる。

やがて、地響きとともにゴミの海の中からクラーケンが姿を現し、ミノタウロスを引き込みにかかる。

危険を察知し、すぐに逃げだそうとするミノタウロス。

ミノタウロスは大きく叫ぶと、体中のよろいの間から熱放射を噴き出す。

腕が緩んだそのすきに、ゴミの海から離れようとする。

背中から黒い翼が伸び、熱放射で飛び出そうとする。

だが、今度は、後ろから触腕が翼につかみかかる。

さらに、吸盤のついた何本もの足が伸びて、からみついてくる。


その頃、マービン電気のトラックのモニター画面を、レベッカたち三人がじっと見ている。

「じゃあ、リーガンさん、ミノタウロスは…?」

「ミノタウロスの反応は、北ブロックのゴミ集積場のあたりで止まったままです」

「巨大生物反応のもっとも強い場所です」

「森の王、クラーケンが…」

その時、リーガンの顔色が変わった。

「あれ…、ミノタウロスの反応が消えました。あとには未知の巨大な反応があるだけです」

「え、どういうことなの、リーガンさん」

リーガンは言葉少なに首を振った。

「まさかと思いますが…、残念です」

「そんな、牛さあん、牛さあん…。あんな強い牛さんがやられるはずはないわ…」

泣き崩れるレベッカ。マービンは厳しい顔で、愛娘をそっと見守っていた…。


軍の車両が無人地域の片隅に止まり、中から兵たちが降りてくる、人間の住む市街地域まで目と鼻の先である。

カノウも出てくる。

医療班の兵士が、やさしく話しかける。

「本当に、ここでいいのですか。シドさん」

カノウはシドになりきって愛想よく答える。

「はい、ここからなら市民病院もすぐですし、国際警察の迎えがすぐ来ますので」

「了解しました。では、私たちはこれで」

軍の車両は、去って行く。カノウ、笑いながら、無人地帯を歩き出す。

遠くの廃墟の上から、ナイトメアがそれを見ている。

「ああ、すべてうまくいった。人間の記憶を書き換える私の能力はすぐにはわかるまい。え、あの男がなぜ、怪物たちに襲われなかったって? ああ、理由は簡単だったよ。同族だったからだ。だからすぐに病院に行った方が懸命だといってやったがね」

カノウ不敵に笑いながら歩いて行く。

「ウヒャウヒャヒャ、ちょろいもんだね。ああ、口座には数千万円振り込まれているはずだし、おれのやばい記憶はすべて消してくれてるはずだし、ああ、いったい何をしようかな」

だが、その時、カノウは激しく咳き込む。

「時々出るんだ、この咳が……。畜生」

カノウ、さらに激しく咳き込んで倒れる。

「なんで、何でだよ、おれ何か悪いことしたかよお。おう」

カノウの背中が破れて、マッシュルームが飛び出してくる。

「ううう、助けてくれ、誰か、誰か……」

カノウ、マッシュルームに飲み込まれて行く

さらに、その気配を感じたのか、遠くから数匹のトロルの群れが近づいて来る。

「やだよー、助けてくれよう。」

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