第25話 救いの手
レベッカの病室
うなされ、苦しそうなレベッカ。
医師と看護婦が脈や体温を測っている。隣でテレサが心配そうに付き添っている。
「いかがですか先生、娘の具合は?」
「ふうむ、どうもいけませんねえ。体のケガは治りかけているのに、ショック症状がさらにひどく、体が弱ってきている」
「どうしたらよいのかしら。お父さんも今、出かけているし……」
「一晩様子を見ましょう。危ないようでしたら集中治療室に…。」
「わかりました。ああ、レベッカ……」
医師と看護婦、静かに病室を出る。テレサ、大きくため息をついて、あとから部屋を出る。
苦しそうなレベッカ、枕もとのリタが贈った花もしおれてきている。
ところが、そこに小さな手が伸び、花をやさしく包む。すると花がだんだん元気になってくる。謎の少女、ヴァイオレットである。
「あなたの大事な友だちはいったいどうしたの?」
ヴァイオレットは、レベッカに静かに近づく。
ここは、警視庁特別処理班 医務室。
巨大生物に襲われて治療中のドリルボット隊員のロビンが、包帯姿で、静かに起き上がっている。
そこに、医師に付き添われて、サキシマ指令が入ってくる。
「ロビン隊員、ともかくは意識が回復してよかった」
ロビンがすまなそうに頭を下げる。
「不覚をとってしまって、迷惑をおかけしてます。でも、どうしても気になることがあって」
ロビンは小さく何かをささやく。
サキシマが思わず大きな声を出す。
「なんだって、巨大生物の手先がいる?いったい、どういうことなんだ」
ロビンはサキシマにデータディスクを渡し、枕元のモニターのスイッチを入れる。
ドリルボットに乗り込んだロビンの映像が映る。
「西地区の公園にパトロールに行ったとき、公園にヘルプ!と書かれた大きな木片が落ちていたんです。その木片を調べると、マンション街に逃げ遅れた避難民が隠れていると書いてあった。だから、私はドリルボットで急いでその場所に行ったんです」
「うむ、その木片の報告は受けている。まさか……」
行き止まりで、ドリルボットを降りるロビンたちの映像が続く。
「ところが、その場所は行き止まりで、何もないんです。変だと思ってアキレスとともに外に出て周囲を調べることにしました。そして、壁際まで行って呼びかけをしたら、突然ビルの上からヒドラが襲いかかってきたんです」
悔しそうなロビンの表情。
サキシマが大きくうなずいた。
「そういうことだったのか。しかし誰がそんなことを。ケンたちにも何もなければよいが」
ケンが操縦席で脂汗をかいている。操縦席の窓の外、すぐそばをトロルやワームがうなり声をあげながら歩き回っている。
その時、通信機から女の声で連絡がはいる。
「こちら増援部隊、ケン隊員、応答してください」
スイッチを入れると、モニター画面に映ったのは、便利屋サムの作業服を着たままのリタだった。後ろにエルンストとハンドがひかえている。
「緊急増援部隊隊員、リタ・ラウリーです。まず、ボムモンスターをこちらにひきつけ、分断します」
ハンドとエルンストが、機外へ飛び出し、リタのドリルボットが冷凍弾を撃ちだす。ケンが驚く。
「なんだ、あのアンドロイドは?人間の指示なしで自立してうごけるのか…。」
2体のトロルが、リタのドリルボットの方へ、動き出す。
エルンストが手袋をはずす。中から、ゼリー状の手が見える。
リタが信頼の視線を送る。
「エルンスト、頼んだわよ」
エルンストが、一匹のトロルに向かって行き、飛びかかる。爪があっという間に硬質化し、長く伸びる。そしてトロルの胸に大きな傷をつける。怒ったトロルは、エルンストを追いかけるが、エルンストは逃げて、逃げまくり、やがて一匹を遠くへ引き離す。
「よっしゃあ、今のうちに挟み撃ちよ。ハンド、行くわよ!」
ハンドが動き出す。右手にソードが光る。左手のドリルが、うなりを上げる。
ハンドは、ドリルハンドとソードハンドをつけ、もう一匹のトロルに斬りかかる。
足に攻撃を受けたトロルは怒り狂い、近くにあるがれきを投げて応戦する。
リタがほくそえむ。
「後ろ、もらったわ」
あっという間に、リタのドリルボットがトロルの真後ろにいて、冷凍弾をぶっ放す。
トロルの足が凍りつき、動けなくなる。
リタが突進する。
「内部圧減圧します!」
そのままトロルの背中に突き刺さるドリルボット、ものすごい勢いで噴き出す熱放射。
「よし、とどめよ」
ドリルが、トロルの体をばらばらに粉砕する。
そのころ,離れた広場でエルンストがトロルの胸に、思いっきり片手を打ちつけ、すぐに離れる。みると、手首が胸に突き刺さり,同化していく。
トロルがうめき声を上げる。
「が、ご、ググ……」
同化部分が急に膨れ上がり、爆発して、トロルは粉々になる。
くるりと向きをかえ、帰還するエルンスト。
ちぎれてなくなっていた手首が、ゆっくりと生えてくる。また手袋をはめる。
襲いかかるワーム、ハンドのソードが翻る。
切り刻まれ、ちりぢりになって行くワーム。そこに、殺菌剤がドリルボットから撃ちだされ、散らばった細胞は溶けて行く。
リタがドリルボットの前に飛び出し、横に、ハンドとエルンストがサッと並ぶ。
「緊急増援部隊リタ・ラウリーです。ケン隊員、ご無事ですか」
ケンは降りて外に出ながらそれに答えた。
「ありがとう、命拾いしたよ。さっき、無線でアドバイスくれたのは、君かい」
「いいえ、な、何か?」
「いや、何でもない。それにしてもすごいなあ、君のサポートアンドロイドは自立行動ができるのか」
リタは自信たっぷりに答えた。
「サポートアンドロイド? いいえ、パートナーアンドロイド、いいえ、大事な仲間です」
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