第24話 トロル

無人の街の中をマービン電気の車両が進んでいく。

リーガンが行程表を確認する。

「おじさん、あと4箇所回れば今日のノルマは終わりです」

マービンはまだまだやる気だ。

「ハハハ、売れる時にどんどん売っておいたから、今度はメンテナンスだけで莫大な収入だ。それに、爆発跡の廃墟の処理許可ももらっておるから、いろんなものが拾って行けるしのう」

車の後ろには、ネコババしてきた電気製品がたくさん積んである。

「いやあ、本当ですねえ、あれ、あんなところに怪物が集まっているぞ」

ゴミの集められた場所に、グールが数匹集まって何か食べている。

「ゴミの集積場だな。ゴミをほうったらかしにして、みんな避難しちまったから生ゴミもそのままだ」

リーガンがハーピーに注目する。

「空を飛ぶ鳥みたいなやつも集まってるぞ。まるでカラスのゴミあさりみたいですね」

「カラスのゴミあさりか、うまいこと言うなあ、おまえ」

はばたくハーピーが、ゴミの上にネバネバした増殖細胞をばらまきながら、飛び回っている。増殖細胞はあちこちで増え続け、ゴミの中には巨大なキノコも見える」

「あれれ、いったいどういうことだ。」

リーガンがあわてた。マービンもどうしたことかと窓の外を見る。なんと、いつの間にか、トラックの横に、ハーピーが何匹もたかってきたのだ。

「し、し、あっち行け。おかしいな、生ごみも食べ物も積んでないぞ」

するとのぞきこんだリーガンが何か思いついた。そして、何かスイッチを押すと、みるみるハーピーたちが離れていく。

「どういうことだ、リーガン」

「わかりましたよ。このトラック、横にマービン電気の宣伝用の電飾がついていてピカピカ光るでしょ。昆虫のガみたいに点滅する光に集まって来ていたんですよ。ほら、今スイッチを切ったら、離れていったじゃないですか」


カリバンを見張りにたて、マービンとリーガンがセンサーに太陽電池パネルと充電ユニットをつけている。

マービンが配線を手早く行い、リーガンが動作チェックを行う。いいコンビだ。

「さあ太陽電池をつけたから、万が一この地域の電力供給がストップしてもセンサーは生き続けますよ」

「動いていてさえくれれば、また第三、第四の金がなる。ほい、一丁あがりだ。」

そのとき、カリバンが警告音を出す。

「危険、巨大生物接近。ボス、リーガンさん、急いで車へ……」

ふり返ると、ビルの陰からトロルが顔をのぞかせる。一つ目で数メートルはある。マービンとリーガンは素早く車に走り出す。だが、間に合わないと見るや、カリバンがトロルに向かって行く。

そのおかげで、マービンたちは車に戻ることができる。リーガンが叫ぶ。

「社長、大変です。カリバンが私たちの身代わりに!」

「ああカリバン!」

カリバンは、トロルに体当たりをするが、怪力で突き飛ばされる。カリバンはなおも立ち上がりトロルに向かって行く、トロルは近くの大きな看板を投げつけ、カリバンを下敷きにすると、ゆっくりと去って行く。

リーガンが車の外に飛び出す。

「ああ、僕たちのために犠牲になって」

マービンが看板の前に走り寄る。

「な、なんて素晴らしいロボットだったんだ」

二人、目を潤ませて残念がる。ところが、看板の下からゴトゴトいう音が聞こえてくる。

「ええ?」

なんと、大きな看板を持ち上げて、カリバンが何も無かったように出てくる。

「ボス、危険は去りました。もう、安全です」

リーガンが飛び上がった。

「奇跡だ。やった、よかった」

「おお、壊れてないかのう、すぐ診てやれ」

カリバン、車に戻り、感激の帰還。マービンはしみじみと語りだす。

「いやあ、カリバン君はいい拾いものだったなあ。また何か落ちてないかのう」

リーガンも感心することばかりだ。

「あの行動力といい、あんな攻撃を受けて、かすり傷ひとつ無い、なんてすごいロボットなんだ」


そのころ、特殊処理班のドリルボット2台が、ビル街を走っていた。

ビルの影から、巨大な影がのそりと現れる。

ケンがすばやく通信する。

「本部、こちらケン、ゴーレムを発見しました。高さ十二メートル、かなり大型です。処理許可願います」

本部から応答が入る。

「確認した。近くにいるルークをサポートに向かわせる。速やかに本体処理した後、周囲の殺菌剤散布を遂行せよ」

「ラジャー」

ハイウェイの横をゆっくり歩き出すゴーレム。それを挟みうちするようにしてケンとルークのドリルボットが近づく。

ケンがさっそく処理にうつる。

「正面攻撃、内部圧、減圧します」

ドリルが、ゴーレムの胸に穴を開け、中からすごい勢いで熱放射が噴出する。

内部圧が抜けたところで、体がドリルによって粉砕される。すると、ルークのドリルボットから、殺菌剤が散布され、増殖細胞のかけらはどんどん溶けて消えていく。

「処理完了。これで今日三体目だ。ふう、操縦士が一人減っちまったから、ノルマがきついぜ」

ルークの顔がモニターに出る。

「この機体は、運転が面倒な上に、爆弾処理とか、今度はアンドロイド操作まで条件に入っちまったから、新しい操縦士はおいそれと見つかるもんじゃないよ。おれたちもいつロビンの次の犠牲者になるかわからんしな」

「じゃあ予定通り、次は西部地区にパトロールに回るよ」

「OK」

住宅地の方へ向かうケン、途中で小さなマッシュルームがいくつもある公園の花壇を発見する。

「本部、こちらケン。マッシュルームの増殖地帯を発見、これからサポートアンドロイドとともに外に出て、処理に当たります」

「了解。そのあたりは、大型の増殖体が多い地帯なので、外に出る時は十分注意するように」

「ラジャー」

ケンが二体のアキレスとともに外に出て、マッシュルームの駆除を行う。

アキレスのウォーターカッターと殺菌剤。マッシュルームはほとんど処理が終わる。その時、遠くで爆発音が響く。ケンがあたりを見回す。

「どうしたんだ、何かあったのか」

爆発音に反応したのか、そこに2体のトロルが出現する。ケンとアキレスたちは操縦席に戻る。

ケンがあわてて本部に連絡する。

「本部、こちらケン。トロル2体と遭遇、ルークの応援を頼む」

「了解。だが、たった今ルークから連絡が入った。がれきの下のマッシュルームを踏み、機体が一部破損、動くことがしばらく出来ないようだ。すみやかに退却せよ。増援部隊を緊急に組織して取り急ぎ対応する」

「ラジャー」

ケンは、バックし、退却を始める。だが、後ろから大型のワームが現れる。

あわててハンドルをきり、壁にぶつかってしまう。

「しまった」

「本部、こちらケン。後方からも大型のワーム出現、挟まれました」

ところが、雑音が入り、うまく通じない。

「今の衝突で、通信機の調子がおかしくなったか……」

その時、なぞの声が通信機から聞こえる。

「トロルやワームは、動くものに反応する。ドリルを使って、がれきの下に一時的に退避、エンジンを止め、やつらをやり過ごすのだ」

「ハ、ハイ、あなたはいったい…」

謎の声、そこで途切れる。ケンのドリルボット、ドリルを使って、近くのがれきの下にもぐりこむ。そこでエンジンを停止する。息をひそめてジッとしているケン。すぐそばを三匹のトロルが行ったり来たりを繰り返す。

「本当だ。おれには気づかないようだ。でも、こりゃあ、長期戦になりそうだぜ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る