第23話 レボリューション

特殊処理班の科学研究所。

特殊処理班のサキシマ司令がアレックス博士を迎え入れる。。

アレックス博士が訪ねる。

「情報局長の怪我の具合はいかがです」

「意識は戻ったそうですが、まだまだ絶対安静だそうです」

「それで…クリーチャーボムの処理の様子は……」

するとサキシマが深刻な顔で答えた。

「我々特殊処理班は、軍の助けを借り、無人地帯となった市の中心部へ二日前から出かけて調査と処理を行っております。しかし情報局長が狙撃され、ツァイスへの報復措置をとる間もなく避難が始まり、市のほとんどが無人地帯となったことが予測しなかった事態を引き起こしています」

「予測しなかった事態とは?」

「迅速な緊急避難で直接的な被害者はいませんが、その一方で、無人と化した街の中で、クリーチャーボムが異常増殖しています」

「異常増殖?」

「バイオボムの処理もせず、生ごみの収集もそのままで避難したのが重大なミスでした。これから見ていただくのは、まるで怪物図鑑のようですが、これが現実です」

モニター画面に、さまざまなボムモンスターが映る。

まずは、下水道の入り口でアキレスが、巨大な芋虫と格闘している。

「これが、増殖細胞が芋虫状になって動き出したワームと呼ばれる個体です。小さなものから3メートルのものまで、また、宿主の生物の遺伝子を取り入れ、昆虫型、ナメクジ型、ヘビのような爬虫類型までいろいろ確認されています」

次は商店街のアーケードの下を、エイリアンのような不気味な怪物が徘徊し、商品やゴミなどを食べあさっている映像。

「次が、ワームに手足が生えて人間のように歩く個体グールです。動きは遅く、知性は低く、栄養分を求めて徘徊しています。人間の骨や内臓に似たフォルムを持ち、銃などで撃つと、大爆発するので処理に手間がかかります」

次に廃墟のような工場の大きな敷地の中を歩くゴーレム。よく見ると、奥にももう一体いる。

「これが、あの事件で有名になったゴーレム。手足が生え、ゆっくり歩くだけで、知性もなく、近付かなければ特に攻撃はしてきません。でも一番爆発しやすく、大きな個体では周囲数百メートルは粉々になりますから。手に負えません。さてこれから先は、新種です」

アレックス博士が画面にくぎ付けになる。

「新種…ですか?」

「やつらは、特殊細胞プロ・メタ・αをテロ組織が改造して作った異常増殖細胞プロ・メタ・γからできた生物です。細胞が増殖すると内部で異常に圧力が高まり、温度が急上昇し、それを抑えられなくなって、爆発にいたるのですが、それをうまくコントロールするやつらが現れたのです」

アキレスの目の前で爆発するマッシュルーム、と思うと、ロケットのように真下に爆風を出し、空中に飛び上がる。そしてそのまま上空に上がると、エイのような形になり、空中を漂い始める。

「比較的小さなクリーチャーボムが、爆発して粉々にならず、その推進力を使って空中を飛び回る例がわずかながら確認されています。さらに空中を飛びながら飛行形態に変化したもの、それがハーピーです。ボム細胞を撒き散らしながら、栄養分を求めて飛び回る、とんでもなく迷惑なやつらで、打ち落とすのも危険なため、処理に頭を悩ませています。」

さらに次は驚くことに、集団でダウンタウンを走り抜ける、エイリアンのような怪物たち。明らかに統制の取れた群れで、獲物や敵を見つけると、胸から熱放射を弾丸のように打ち出し、攻撃を仕掛ける。

「そしてグールの進化種、知能が異常に高く凶悪なデーモン、こいつらは内部の圧力が高まると、それを弾丸のように打ち出し、攻撃に使ってきます」

アレックス博士が驚いて画面をまじまじと見つめる。

「内部の熱放射を武器に使うとは……。信じられん」

次は、無人の住宅街を歩きまわる巨人が映る。ゴーレムより手足が明らかに発達していて、餌を捜してものを持ち上げたり壊したりしている。ドリルボットが近づくと周りの自動車を怪力で持ち上げ、投げて攻撃をしてくる。

「こちらがゴーレムの進化種、怪力で、近づくと攻撃を仕掛けてくるトロルです。こいつレベルになると、ドリルボットでも処理に手間取り、複数で出てくるともうお手上げです。さらに……」

「まだ、もっとすごい個体がいるのですか?」

サキシマはうなずくと、小さなデータディスクを新たに取り出す。

「これは今朝方に撮影されたものです。これを撮影したドリルボットは全壊、操縦士は重症です。サポートアンドロイドのアキレスが、データと操縦士の命をかろうじて運んでくれたわけです」

乱れた画面の中に、巨大な毛むくじゃらの巨人や、首が何本もある怪物が映る。

アレックス博士がわが目を疑う。

「まさか、こんな短期間のうちに……」

「仮に、あの巨人をジャイアンと、首のたくさんある怪物をヒドラと名付けましたが。ジャイアントは、トロルよりもふたまわりも大きく、あの大きさで、熱放射を自在にコントロールするそうです。さらにドリルボットを全壊させたのは、ヒドラのようです。我々は多少の犠牲をはらっても、クリーチャーボムが大きく育つ前に緊急に処理すべきだった。少なくとも、すぐに逃げ出すのではなく、立ち向かわなければならなかった。とにかく、やつらが、封鎖地域の中にいるうちに処理してしまわなければ……。通常の武器が使えないので、博士に無理を言うしかないのですが……」

アレックス博士が大きくうなずいた。

「わかりました。さらに強力な機体を開発しましょう」


便利屋サムの事務所

窓から外を見る博士。すぐ近くにバリケードがあり、その向こうに無人の街が広がっている。リタがまた無理なお願いをしているようだ。

「お願いします、博士」

「イネス、どうじゃ、実際にあの封鎖地域の内部に入れるものなのかな?」

イネスがパソコン画面をにらんで悪戦苦闘している。

「まったくとんでもないお願いね。ええと、今現在、封鎖地域に入っているのは、今回の事件に最初から関わっている警察庁特殊処理班と、アレックスラボのメンバー、バリケード周辺をパトロールしている軍の特殊部隊、あと中央政府の諜報機関の調査隊、あと民間の増殖細胞センサーのメンテナンス班……。これですべてです」

「よく民間が入れたなあ、何だいそのメンテナンス班っていうのは?」

「まさかのマービン電気です」

リタが目を輝かせる。

「レベッカのお父さんだわ。頼めば一緒に行かせてもらえるかなあ」

「もう、届出がすんで、2名プラスサポートアンドロイドって、メンバーも決まっているから難しいかもね」

リタはあきらめない。

「そうしたら、国際警察つながりで諜報機関のメンバーに加えてもらうとか……」

シドが割って入る。

「そりゃあ、もっと難しいぞ。おまえ、警察関係に評判悪いし…」

イネスが何かを探し当てる。

「ひとつだけぴったりのがあるわ。でも、これは覚悟がいるわね。第一、ハンドとエルンストをうまく使いこなさなければならないわ」

イネスがさっと画面をプリントアウトし、紙をリタに渡す。リタ、しばらく考え、大きく息を吸ってから答える。

「行きます。ええ、やってみるわ」

「ええ、まさか本当にやるって言うとは思わなかったわ」

「やってみます。それが、一番目的に近そうだし……。でも博士、そうしたら、エルンストのことをもう少し詳しく教えてください。この間のアンドロイド襲撃事件のことを聞いて、どうしても心の整理が付かなくて」

博士の目がきらりと光る。

ソロモン博士が静かに語りだす。

「うむ、おまえさんが不安に思う通り、クリーチャーボムの細胞と、バイオアンドロイドのエルンストの細胞は元は同じものじゃ」

「やっぱり、私の家族を奪ったあの忌まわしい爆弾と、エルンストは同じものからできているんですか」

「もとはヨーロッパの研究グループが開発したすばらしい発明だった。、拒絶反応がまったくなく、体のどの部分にもなることのできる夢の細胞プロ・メタ・αだった。だが、生態に移植すると、人間や動物の遺伝子を取り込み、異常増殖が頻繁に起こったのだ。人体への移植は凍結され、研究用以外は封印された。そして、その頃人工知能の研究、特にバイオコンピュータの研究をしていたわしとローゼンクロイツ博士のところに、この実験用細胞プロ・メタ・αの使用許可がおりたのじゃ。生命科学にも造詣の深いローゼンクロイツは、異常なほどの執念で研究に打ち込んだ。交通事故で植物人間となってしまった一人娘の役に立つかもしれないとも言っておった。そして、二年後、増殖をコントロールできる新しい細胞プロメテsの開発に成功したのだが…。」

「いったい、どうなったっていうの…。」

「よくわからない。だが、わしのところに一通のメールが来た。…プロメテウスの火は人間には重荷であった。研究はすべてリセットする…それで彼は自分のところにあったシステムやデータをすべて消去してしまった。異常増殖か何らかの暴走があったのかもしれない。私の手元に残ったバイオコンピュータは、しかし、処分しろとは言わなかった。それがエルンストだ。頭部のバイオコンピュータの他は増殖した彼の細胞でできていて、彼以外には制御・再生はできない。」

リタが真剣なまなざしでたずねた。

「エルンストは、異常を起こしたりはしないの?」

「細胞の異常増殖を制御するために、我々はあらゆる条件を想定して数百回も実験を行った。一度も異常は起きなかった。エルンストは暴走しないとは絶対に言えないが、わしゃあ、信じてやることが必要だと思っている。…やつは現に生まれてしまって、わしらと一緒に仲間として生きておる。」

イネスが静かに言い放った。

「あなたが、エルンストを同じ仲間だと思えないなら、リタ、この仕事は受けないほうが賢明だと思うわ」

リタは少し離れたところに座っているエルンストをじっと見つめた。

「エルンスト、あなたと話をしたことはなかったけど……。便利屋の仕事や捜査をいつも一緒にやってきたもんね」

「……」

エルンストは基本的にしゃべれない。生態コミュニケーターが、まだ試作段階なのだという。言うことは理解できるが、黙っている、顔もヘルメットで見えない。

エルンストとリタ…、二人は分かり合えるのだろうか?

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