第12話 ドリルボット

ここはあの広い敷地のアレックス・ラボの新製品発表会場

暗い会場にスポットライトが当たり、司会者が現れる。

司会者が高らかに開会を宣言する。

「ご来場の皆様、おまたせしました。いよいよ新型機種の発表です」

用意された巨大スクリーンにクリーチャーボムの実際の映像が写される。

司会者が解説する。

「皆様もご存知の通り、このクリーチャーボムは、成長したあとは下手に銃や重火器を使用すると爆発を引き起こして、かえって大変なことになります」

銃を使い爆発を起こし、近くにいたアキレスが吹き飛ぶ映像が映る。観衆のどよめきが起こる。

「ところが、今回のアキレスの新型A131は、セラミックソードにかえて、高性能ウォーターカッターを装備、決して爆発を起こすことなく、目標物を切り刻みます。また、水道水でよいので、すぐに補給もオーケーです。さらに新装備の冷凍銃によって細胞単位まで処理します」

アキレスの新装備の映像が映る。観客から拍手。

会場が明るくなり、アレックス博士と、サキシマ特殊処理班司令、情報局長が登場。

局長がマイクの前に立つ。

「しかし、前回の爆発事件のおり、我々はとんでもない物体を発見したのです」

サキシマが、スクリーンの巨大なキノコを指し示す。

「細胞の増殖に適した環境や栄養分などが偶然そろった場合、とても巨大な増殖体が現れることが確認されたのです」

巨大な増殖体の映像に観客からどよめきが起こる。

アレックス博士がゆっくり進み出る。

「これでは新装備のアキレス部隊でも効率よく処理することが難しくなります。そこで、わが研究所が総力をあげて開発したのがこのドリルボット101なのです」

大画面と後ろの幕が動き、巨大なドリルをつけた戦車のような機体が現れる。

アレックス博士が自信たっぷりに解説する。

「このドリルは前後左右・上下にそれぞれ180度以上稼動可能です。爆発させずに、バイオボムに穴を開けられますこれで大爆発は未然にストップです。さらに、電子制御により、ロックオンするだけで、スムーズに冷凍弾を命中させ、目標を破壊することができます」

サキシマが現場からの言葉を加える。

「今、操縦者を養成中です。この機体を運転するには、重機の免許のほかに爆弾処理などの資格も必要になり、来月末には3人が実戦に配備される予定です。明日正午、養成隊員によるデモンストレーションを行います」

舞台の後ろから、ケン、ルーク、ロビンの三人が出てきて、手を振る。

会場の隅で、それを複雑な表情で見守るリタとシド。


カノウの部屋(夜)

どこかで、ガチャンと音がする。

カノウが起きて、ペットの水槽のほうを確認する。すると、ひとつの水槽が割れていて、中に居たはずの物がいない。天井のほうを見ると、ヤモリが家具の陰に逃げ込むのが見える。

「何で水槽のガラスが割れたんだ。でも、毒蛇やタランチュラでなくてよかったぜ。このドアを閉めればどこにも逃げ出せないしな。明日の朝に、とっつかまえるか」

カノウは、寝室に帰る。閉まるドア。逃げたヤモリをよく見ると体にあのマッシュルームのような増殖体が付いている。


便利屋サムの研究室(深夜)

ソロモン博士がなにやら研究している。そこにイネスが、やってくる。

「博士、あまりがんばるとお体にさわります」

「うむ、ツァイスが、なぜあんなちゃちな詐欺団に、危険を冒してまでカエサリオンを与えたのか、ちょいと思い当たることがあってな」

「そういうことなら、どうぞ言ってください。お手伝いします」

「うむ、そういえば君も親しかったんじゃないか、ローゼンクロイツ博士と」

イネスがお茶を淹れながら思い出す。

「自然を愛する素晴らしい方だったわ。環境とロボットをいかに共存させるかをいつも考えていた。あの方の淹れた自前のハーブティーは最高だった。でも、すべての秘密を持ったままどこかに消えてしまった」

「同じころ、財団のやり方に疑問を持った私たちは、同じように研究施設から退去していった。私は国際警察の保護下に入ったが、ローゼンクロイツは貴重な研究成果と共にまったく消息を絶ってしまった」

イネスがはたと思い当たる。

「まさか、博士の消息が……」

「博士がこの街に来ているという噂があったんだ。だがそれ以上の手がかりはまったくなかった。なんでもあの詐欺団は、この町の高齢者全ての個人情報のリストを手に入れ、必ず自宅のパソコンから、テレビ映像で連絡を取りデータを集めていた」

「なるほど、ツァイス自身はほとんど見ているだけで、この町の高齢者の必要な情報がすべて手に入れられる」

ソロモン博士が、目の前のパソコンを指示した。

「それで私は、もしやと思って詐欺団の通信していたパソコンに何か痕跡がないかと調べたのだが。やはり、スパイソフトが動いていたあとが確認できた。この町にローゼンクロイツ博士が来ていたとしたら、居場所がつきとめられてしまったかもしれない。」

「ツァイスの手に情報が行かなければ良いけれど」


マービン電気研究所(深夜)

急に警報音のようなものが流れる。髪をクシャクシャにしたリーガンが起きてきて、何事かとあたりを見回す。

カエサリオンの目が光り、警報を出している。

リーガンがのぞきこむ。

「いったい、どうしたのかな。故障はしてないようだけれど……」

「ミッションコンプリート。ミッションコンプリート。ローゼンクロイツの特定終了。この町の住人に該当あり。名前も経歴も架空のもの、声紋、顔の輪郭線において99パーセント一致」

「いったい何だこりゃ……」

頭をかかえるリーガン。だが、近くのモニターに町のマップと赤く光る点が現れる。

「いったいこれは?何だかわからないけれど……、意外と近くだぞ」

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