第11話 公園の青い空
公園通りにあるペットショップ
店内に並ぶペットたち、犬、猫、金魚、カメ。女の子が子犬をだっこしてニコニコしている。一人の若者、カノウが外国産の大型のヤモリを選ぶ。
「うお、スゲエ。このヤモリ、持って帰ろうかな。どうですか、人に馴れますかね」
店員がサッと近付く。
「ありがとうございます。そいつでっかいけどおとなしくて、ハンドリング可能ですよ。さすがですね。もう、その種類は入りませんよ」
ヤモリをパッキングしてもらい、喜んで、帰路に着くカノウ。
少し離れた行き止まりにある高層マンション。
カノウが部屋に入ると、たくさんの水槽が並び、ヘビやトカゲ、タランチュラなどがたくさん飼育されている。
そのマンションからすぐ見下ろせるビルの工事現場。クレーン車が絶え間なく動き、鉄骨が組み上げられて行く。
ところが、ふいに鉄骨が、落下、下で作業していた作業員が、大怪我をする。
現場監督が叫ぶ。
「クレーンを止めろ。救急車を呼べ。工事はしばらく中止だ」
あわてて走り回る作業員たち。だが、一人の作業員が現場を見ながらにやりと笑う。
その工事現場の前を、リタたちが四駆で走って行く。
工事現場から目と鼻の先の大きな研究所のそばで停まり、みんな降りる。
リタが広い敷地を覗き込む。
「ここが、爆発予告のあった、アレックス・ラボね。どんな場所なの」
シドが冷静に答える。
「テロ事件やロボット犯罪の時に必ず出てくる、アキレスっていうアンドロイドがいるだろう。あれを開発・設計しているところだ」
「ああ、あのアンドロイドね。それでテロ組織ソドムの標的にされたわけだ」
「2日後に対テロ組織の新製品の発表会が開催される予定だ。それを阻止するためのものだろう。クリーチャーボムを使うと予告してきたから、細胞が増殖する時間を考えると、今日あたり怪しい動きがあるかもしれない」
そこにバイクに乗った、モリヤとエルンストがやってくる。
シドがモリヤに呼びかける。
「どうだった、道路の警備体制は?」
「爆破予告があったということで、検問所も監視カメラもすごい充実ぶりだ。怪しい車両や不審人物は残らずチェックされるよ」
「じゃあ、オレとハンドで、研究所の周りをパトロールするから、モリヤとエルンストはこのあたりのマンションを頼む、それから、リタは地元だよなあ」
「そうねえ、商店街も住宅地も、顔見知りばかりよ」
「じゃあ、便利屋のチラシを配りながら、住宅地から公園まで見回ってくれ。特に、公園の花壇は危険エリアに指定されている。よろしくな」
さっと、それぞれの場所に散って行くメンバー。
道をゆっくり歩きながら、アナライズハンドで、あちこちを分析するハンド、手際よく、動き回るシド。モリヤとエルンストは、すばやく階段をのぼり、あちこちで聞き込みを行う。道を歩きながら、商店街や住宅地の地域民と挨拶をかわすリタ。
パン屋のご夫婦、肉屋のおじさん、花屋のおばさんなど、次々に、親しげに声をかけてくれる。
同時刻の工事現場。
事故調査中、工事延期などと書かれた看板がかかっている。
誰もいないはずの工事現場の奥で、一人の男がなにやら黒い液体を床部分に流し込んでいる。
カノウがマンションの部屋から、外を見下ろす。
リタが歩いているのが見える。そこに犬を連れたレベッカが来る。
手を振り、あいさつする二人。
二人は並んで楽しそうに歩き出す。
リタの親友レベッカは、長身でモデルのようなお嬢様だ。
「よかった、リタが思ったより元気そうで」
「…。」
黙って微笑むリタを見て、レベッカは話題を変える。
「そう……、そういえば髪を切ったのね」
「ふふ、今の仕事が肉体労働なものでね。どう、似合うかしら」
「ハイスクールのバスケ部にもどったみたい。元気娘って感じでいいかも。私も切ろうかなあ」
「ベッキーは、お嬢様だから、今のほうが似合っていると思うわ」
「お上手なこと。ねえ、ラッキーの散歩で公園まで行くんだけれど、一緒に行ってくれない」
「ええ、私もちょうど公園まで行こうと思っていたのよ」
そしてたどり着いたのは中央公園。
大きな噴水のそばでくつろぐ、家族連れ。まぶしい花壇の周りを、楽しそうに歩くお年寄りなどもいる。
犬を連れた人々が寄ってきて、みんなで犬を可愛がったり、楽しそうに語り合う。
リタが花壇のまわりを歩きながら、それとなく怪しいものをチェックする。
レベッカがそっとささやく。
「やっぱり気になるんでしょ、花壇とか土のあるところとか……」
「う、うん、やっぱりあんなことがあると、どうしてもね……」
「でも、いい知らせがあるのよ」
「ええ、いい知らせって?」
「実はね…うちの研究所にリーガンさんっていう技術者がいてね。その人があの爆弾のセンサーの開発に成功したらしいのよ」
リタの顔色が変わった。
「うそ、どんなセンサーにも反応しないんじゃ」
「もちろん、人間の体についている時はだめなんだけど、ほら、キノコみたいに増殖したときはわかるらしいのよ」
「それってすごいんじゃないの。もう発売するの?」
レベッカが得意そうに続けた。
「数日中に発表して、来週からは売りに出すって、お父様が言ってたわ。なんでも、以前たくさん作ったキノコ探知機の部品がそのまま使えるんですって。」
「すごい、すごいわ」
レベッカの瞳が輝いた。
「リタが喜んでくれてよかった。少しでも力になれてうれしいわ」
犬のラッキーをはさんで、楽しげな二人。
そこに不思議な少女が突然現れる。
少女は、犬たちが集まっている中に飼い主を無視してどんどん入り込み、なれなれしく犬と話を始める。犬たちは、飼い主より、さらに親しく近づいていく。
少女はおおきくうなずく。
「うんうん、そうなの、へえ、なるほどね」
飼い主の一人が進み出る。
「ちょっとあなた、何ですか。人のうちの犬を」
少女は鋭い言葉を投げかける。
「あなた、犬にお菓子ばかりあげてるわね。ちゃんとした餌をあげてね」
「そ、それは……」
「こっちの子は運動不足だし、こっちの子はしょっちゅう一人ぼっちね」
別の飼い主が言い当てられて、気味悪くなって声をかける。
「メリーちゃん、ほら戻っておいで」
少女は、値段の高そうな犬を捕まえ、体をあちこち触る。犬は気持ち良さそうにしている。
「ちょっと、うちの子に何をするつもりなの」
「あら、あなたはこの町にきたばかりなのね。これは大変だわ」
「何が大変よ。警察を呼びますよ。いいかげんにうちの子を放してください」
「飼い主さん、すぐにこの子を病院に連れて行かないと大変なことになるわ」
「うちの子は獣医さんに昨日診察してもらったばかりよ。変なこと言わないで」
少女は立ち上がると、吐き捨てるように言った。
「愚かね、人間って」
少女は林の方へと歩き出し、気が付くと消えている。
「あれ、今の子、どこにいったのかしら……」
リタが辺りを見回した。少女の消えた先には、中央公園の美しい植物園と抜けるような青い空があるばかりである。
その公園の片隅を不気味な黒い鞄の男が通り過ぎて行った。抜けるような青い空の下を。その足元を、数匹のネズミが走り抜ける。近くの物陰や下水移動に駆け込んでいく。何かが起ころうとしていた。
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