第10話 アクター
「そんなばかな。ハンド、あの車はどこにいったの?」
「今の車、あれだ」
そういってハンドが指差したのは、真っ赤なスポーツカー、しかも乗っているのは、金髪の女性だ。
リタがハンドに食って掛かる。
「どこが、さっきの車なのよ」
「信じてくれ。あの車に間違いない」
だが、言い合いをしている時間はまったくない。
「わかったわ。納得はできないけど、あんた、うそつきじゃないからねえ。白いセダン自体が間違いだったかもしれないし……。どういうことなんだか」
ハンドルを切り、赤いスポーツカーを追いかけるリタ。赤いスポーツカーは、スピードを上げ、どんどんと町外れに走って行く。何回か角を曲がったあと、一瞬見失う。
「しまった、右か、左か。どっちだ」
ハンドが冷静に答える。
「右だ、エンジン音がする。間違いない」
ハンドの言葉通り進んでいくと、スクラップ置き場につながっている、あたりはこわれた家電品や廃車などが横たわっている。
「変な場所に出ちゃったな。あれ、エンジン音?」
エンジン音がしたほうを見ると、スクラップになった家電を積んだ大型トラックだった。マービン電気のロゴが…。トラックは道路の脇に止まると、そのあたりにある家電品を積み始めた。その先は行き止まりだ。
「エンジン音って、今のトラックじゃなかったの。やっぱりここじゃないみたいね」
リタが引き返そうとするがハンドはゆずらない。
「いや、ここだ、あの車はすぐそばにいる。私を信じないのか」
「信じるけど……」
車を降りてアナライズアームをあちこちに向けるハンド。考え込むリタ。その時通信が入る。
イネスの顔がモニターに出る。
「どうしたのリタ。町外れの変な場所で、車の信号が停止したままなので、トラブルでも起きたのかと心配したのよ。シドは地下鉄で逃げられたみたいね。そっちはどう」
まだ、慎重にあちこちをさがすハンドの姿。車を降りてそれを見るリタ。
「……というわけでね。どうも違うみたいなんだけど、ハンドが間違いないって動かないのよ」
「アナライズアームをつけたハンドの能力は並大抵じゃないわ。嘘を言ってるとも思わないけど、おかしいわね。あら、ちょっと待って、博士が言いたいことがあるって」
ハンドは、まだ、あちこちを捜している。
「だから博士、白いセダンが、赤いスポーツカーにかわり、今は行き止まりのスクラップ置き場なんですけど……。もう、やめさせたほうがいいんでしょうか……。
ソロモンは落ち着いて話し出した。
「君の信じる心が、やつをさらに進化させたかもしれない。ツァイスの犯罪ロボットの中には、電子知能を積んだロボットカーがある。車体の色や形を自在に変化できるとんでもない代物らしい」
「そんなばかなこと!」
ハンドの動きが1台の車の前でピタリと止まる
ハンドが大きな声を出す。
「リタ、私のアタッシュケースをとってください」
「え、何か見つけたの?」
ハンドが塗装がはげてつぶれた車にレーザーライトを照射する。するとつぶれていた屋根が持ち上がり、車体がガタガタと動き出す。一瞬光って赤いスポーツカーに変わる。驚くリタ。急にエンジンがかかりハンドに向かってくる。よけるハンド。車は急ブレーキで止まり、中からさっきの金髪の女が降りてきた。
金髪の女は得意げに話し出す。
「稼動骨格技術というのがあってね、それと光学迷彩技術と合わせると、車の種類を変えたり、体系や身長が大きく異なる他の人間に代わることもできる」
カツラが落ち、服が破れ、金髪の女はみるみる屈強な男に変化して行く。
その背の高い男が続ける。
「しかも天才ソロモン博士は私に極上のコピーブレインを与えてくれた。身長を50センチほど、華奢な体から筋肉質まで変えられるだけでなく、その人物の認識能力や運動神経までコピーできるのだ。今の私は、立ち技の格闘技の世界チャンピオンと同じ技をくりだすことができる。まあ、違うのは、拳が特殊合金ってことかな」
ファイティングポーズをとって、切れのある動きで殴りかかる男、ハンドも応戦するがすべてかわされ、何発もパンチを食って吹っ飛ばされる。ハンドにアタッシュケースを渡そうとしたリタも吹っ飛ばされ、何本ものハンドの腕が、地面にちらばる。
「その右手の分析装置はたいしたもんだが、あんた、攻撃力がお話にならないねえ。何だいそりゃあ、修理用の部品かい」
リタが鋭い目でにらんだ。
「もう、何でもいい、あいつにパンチを一発返すのよ」
リタは、近くにあった腕を一本つかむと、ハンドに投げる。それを受け取り、付け替えるハンド。男は、フットワークも軽く、再び襲いかかる。
「ハハ、もう何をやっても同じだ。超合金の拳でくだけちれ」
その一瞬、ハンドの声が響いた。
「マッハパンチ!」
重なり合う二つの影、ハンドの手から、1秒間に数十発のパンチが繰り出される。
「なんだ、このスピードは!」
逆に吹っ飛ばされる男。
だがその時、赤いスポーツカーの中から、急に電子音が聞こえる。
「おや、もう時間かい。楽しかったぜ新人さん。あんた名前は?」
「The・Hand(ザ・ハンド)だ」
「おれはアクター。おぼえておくぜ」
アクターはそのまま車に乗り込み、近くのスクラップに飛び込むと、中からあの箱を引っ張り出しそのまま車で走り出す。
リタも負けじと車を発進させる。
「今度こそ逃がさないわよ」
「あばよ、威勢のいいおねえちゃん」
赤いスポーツカーは、後ろからジェットを噴出し、大きくジャンプして塀を乗り越え走り去った。リタはただ茫然とそれを見送るだけだった。
「なんて車なの」
笑うアクター。だが、車の中で箱の中をのぞいて驚きの表情!
「まさか!だ、誰がいつの間に?」
箱の中には、こわれた家電が入っているだけだった。電子知能カエサリオンはどこにもない。
少しして、マービンの研究所
リーガンが一人で何か研究している。そこにマービンが何か持って入ってくる。
「どうだ、リーガン、オレの持ってきたディスクにデータが入っていたか」
「ハ、ハイ、よく、こんなもの手に入りましたね。増殖細胞の特異なタンパク質が特定できそうですよ。」
マービンは得意顔だ。
「科捜研の若いのに、うちでアルバイトしていた技術者がいたのを思い出してさ。うまいこと言って拝借したわけさ。なに、別に悪いことに使うわけじゃない。すべては人助けだ。」
「そうですよね、人助けですよね。あとは、もっと性能のいいコンピュータがあれば、早く開発できるんですけど」
するとマービンはますます意味ありげに笑い、とんでもないことを言い出した。
「ヘヘ、そんなことだろうと思って、いいものを持ってきたぞ」
持ってきた箱を開けると、中には手足のない人型の精巧なロボットが入っている。カエサリオンだ。リーガンは驚いてしばらく声もでない。
「こ、これと似たものを、大学の研究室で見ましたよ。高性能の電子頭脳だ。どこでこんなすごいものを!まさか社長…?」
「ハハハ、スクラップ置き場に隠してあったのを、中身だけすり替えてきたのさ」
「そんなことして、平気なんですか」
「はは、拾ってきた場所を考えてみな。スクラップ置き場のリサイクル許可証はマービン電気が持ってるんだ。お役所のお墨付きだ。あんなところに置いておくほうが悪いんだ」
リーガンはホッと胸をなでおろした。
「そうですよね、法律的には問題ないんですよね」
マービンは高らかに笑った。
「リサイクルだよ、リサイクルさ」
「そうですよね、有効活用しますよ」
研究室に響き渡る二人の笑い声。
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