あまあまの方程式

真崎いみ

美味しいもの×美味しいもの


「甘やかされたい人はいますか~?」

おばあちゃんはにこにこと笑いながら、孫の私に問いかける。おばあちゃんの甘やかしは挙手制だった。と言っても、私しかいないときにおばあちゃんは甘やかしを発動するので、その恩恵を充分にうけるのは私だった。

「はいはい、はーい!!」

私は勢いよく手を上げて、自分の存在をアピールした。おばあちゃんが甘やかしてくれるときは、大抵美味しい目にありつける。今日は何だ、何だ?

「よっしゃ。じゃあ、お昼にカップ麺食べよ。赤いきつねと緑のたぬき、どっちがいい?」

「何、その究極の二択!?」

しみっしみの甘いおあげさんの乗ったうどんと、かりかりの香ばしい天ぷらがのったそばを私はいつだってどちらかを選ぶことが困難だった。

「うーん…、今日は…赤いきつねにする!」

「じゃあ、ばあちゃんは緑のたぬきー。」

そう言って、おばあちゃんは沸かしたお湯を容器に注いでくれる。できあがるまでの待ち時間は、おばあちゃんと恋の話をした。うふふ、と微笑んでおばあちゃんは言う。

「ばあちゃんには恋人がいてね、その人は小児麻痺を患っていたの。」

「ええー、誰?その人の名前は!?」

私は、その人のことを知りながらわざと質問する。

「ナイショ。」

そう言って人差し指を唇に当て笑うおばあちゃんの恋人は、今は亡きおじいちゃんのことだった。ラブラブじゃねえか。のろけ話を散々聞いている内に、カップ麺二つができあがる。お出汁の香りが堪らない。私は一番初めの一口はいつも汁だった。

口に含んだ熱い汁は身体に染み渡るように美味しくて、思わずため息を吐いてしまう。恍惚の表情で一旦容器をテーブルに置くと、ここでおばあちゃんが私を甘やかす。

「ほれ、やるわ。」

そう言うと、おばあちゃんはかりかりに仕上げようとお湯を注ぐ前に取り除いておいた天ぷらを、私の赤いきつねに投入した。

結果、おあげさん+天ぷらの乗った夢のような赤いきつねができあがる。

「いいの!?おばあちゃん、かけそばになるよ?」

「緑のたぬきをなめんなよ。そばだけでも美味しいのが、こいつのすごいところよ。」

にやり、と笑うおばあちゃんに嘘偽り無く、確かに緑のたぬきはそばだけでも美味しかった。

おばあちゃんの真似をして、私は自分の子どもに同じ事をした。子どもは目を輝かせていたよ。私も似たような表情をしてたんかな。

でも、やっぱり天ぷらはかんたんにはあげられないなー。

愛だね。


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あまあまの方程式 真崎いみ @alio0717

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