ハーメルンの死神① 狼少女

ふと、ウソをついてしまったんだ。

自分を守る為に、自分を汚した。

そしたら容易く災難を免れて。

ウソってこんなに容易くつけるんだって。


いつしかウソの噂を流し始めて

みんなの反応を楽しんだ。

ついにはインターネットにも、流しだした。


ボタン一つで

簡単に

電波で何でも流せるんだ。

なんだか怖い、でもやめられない。

ウソをつくのがクセになってゆく。



「騙される方が悪いんだ」

「"嘘も方便"なんだ」

そんな言い訳を吐き捨てて

今日も一人、電子機器一つで。

息をするようにウソをついた。

息を吐くようにウソを吐いた。

バレそうになってもウソを積み重ね

スリル満点なゲームのように思えてきた。






それはある日突然出逢う。

目の前のあなたは、死神なの?

色とりどりで優しそうな笑顔。


唐突に私に吐き捨てたの。

「きみは狼少年みたいですね」

どうして?

あなたは、私のことが分かるの?


「狼少年は最後、誰にも相手にされてもらえなくなります。その覚悟が、あったのでしょう?」


そう言って、きみは笑いながら、狂ったような音色響かせた。

世界がグニャリとねじられたような、感触。

あなたが差し出す手鏡を見ると。

何で!?

私は消えてるの!?






誰にも認識してもらえない透明人間生活が始まった。






あれからどれだけ経っただろう。

みんな私のこと忘れたみたい。


花も。鳥も。風も。月も。

変わらず生きてる。

家族も。友人も。知り合いも。

私を忘れて生きてる。


狼少女はこの世界に溶けた。

もう慣れた。

ただ街をさまよってる。


あの世界のグニャリとねじられた感触。

笛で奏でられた狂ったような音色。

記憶の隅に残っている。

こびりついて離れないんだ。


ウソのつき方は忘れたけど。

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