編集して誤魔化しているが、長編にする予定だったけど途中放棄した小説だなんて、口が裂けても言えないの……

病気持ちと幸せ者が家出する話

「……ハァ……ハァ……」


僕の息は夜の大都会の騒音に溶けて消えていく。

すれ違う人はみんな、僕に目もくれずに自分のことばかり考えて進んでいく。


「……どこに……逃げればいいんだろ……」


自分にも分からない。

ただ何も考えずとびだしただけだから。

ただ逃げたくて逃げ出しただけだから。

行く宛もなく、ただ夜なのに昼間の如く明るい大都会をさ迷うだけだった。




ふと、少し人通りの少ない路地裏を見つけた。

落ち着くにはちょうどいいだろう。

マスクをつけ直し、路地裏を歩いていく。

暗い。

後ろから光が差し込む。

でも僕は、さらに奥に歩いていく。

星も妬むほどの光はさすがに疲れた。


……そんなことを考えていると、奥の方で人影が揺れたのを感じた。


気のせい、かな……。

こんな路地裏に人なんているわけ……。











「……うわあああああ!?」

「えっ、えええええ!?」

「しっ、静かにしれ!噛んだ!静かにして!」

「うっ!?」











本当に、誰かいた!

なんか、静かにして……って言われたし、なるべく小声で話そう……。


「えっと……きみは……」

「こんな夜の大都会に1人……もしかしてあなたもあたしと同じ……?」

「僕と……きみが、同じ……?」

「……あなた、何かから逃げてきたの?」


……何で分かったんだろ。

そうだ……僕は逃げてきたんだよ……。




あの日──両親が僕を置いてきぼりにして旅行に行き、その道中で事故に遭った日。僕は何でか、名前も知らない病気にかかった。




だから今こうしてマスクを……


「風邪、ひいてるの?」

「えっ?いやっ、何かの病気なんだ、僕。それが何かは分かんないけど……」

「ど、どんな病気なの……?」




「世界が、荒廃した廃墟に見えるんだ……。そんなはずないのに……全部が全部、廃墟になってるはずないのに……どうしても、目眩でそう見えてしまう。だから、もしかしたら意味がないかもしれないけど、せめてもの気遣いで、みんなにうつさない為にマスクをしてるんだ。」




僕を不思議そうに見つめる少女。

同い年くらいだろうか。


「……あなたは優しいんだね。何て呼べばいい?」

「えっと……ますい!ますい、って呼んで!」

「ますい君。ますい君は、何から逃げてきたの?」

「えっと……お母さんとお父さんに、いじめられて……」

「あ、やっぱり。でも、あたしとは真逆だ。」


そうかそうか……

……って、えぇぇ!?


「あたしのお母さんとお父さんはね、あたしにすっごい期待をしていてるの。始めは嬉しかったんだけど……何だか愛が重く感じて、息苦しくて、家出してきて……でも、顔を隠さなきゃ安心できなくて、なかなか路地裏をとびだせず今に至るんだ……。」

「……愛されているからって、幸せとは限らないんだね」

「そう!ますい君、よく分かってるなー。本当、幸せって難しいよねー。」

「……僕の両親は、いっつも僕をいじめてたよ。でも、僕を置いてきぼりにして行った旅行で、事故に遭ったんだ。」

「お互い苦労してきたんだね……でも、良かったよ。あたしと同じ状況の人間がいてさ。」


……目の前の少女の笑顔が、とても愛しく思えた。

本当に安心してるなって、疑う余地すらない笑顔で。

大衆心理が働いているのか、僕もとっても安心したんだ。


涙が出てきそうな時、きみは言った。


笑顔を変えずに。

はっきりと。


「……あたしもつれてって」







***







「……僕でいいなら」

「ますい君じゃなきゃダメだよ」


何だか照れくさい。

でも、この子は僕の話の初めての理解者だ。

それに、僕と同じ状況で困っているのなら、助けてあげなくちゃ。

例え僕と違ってきみが病気してない健康な身体でも、きみがとてもつらそうなのだ。


このマスクだって、本当はしたくな……

ん……?


「……どうしたの?僕のマスク……気になる?」

「ますい君の……素顔が見てみたい」

「ダ、ダメだよ!病気うつしちゃうかも……。」

「むー……でも、何だかますい君が隠し事をしているみたいでやだ。……あ、そうだ。」


何かを思いつくきみ。

……あれ?そういえば、きみの名前って……




「……お互い、何かを隠そう。ますい君は素顔を隠せばいい。そしたらあたしは、本名を隠すよ。ただ、どっちかが隠してることを明かしたら、もう一方も明かすこと。それが条件ね。いい?」




「……うん、いいよ。きみは本名を隠して!」

「わー、ありがとう!」

「……ただ」

「ん?」

「僕は、きみをどう呼べばいいか分からない」


これから先、どうやって呼べば……。


「……確かに。」

「どうしたらいい?」

「どうしよう……うーん……」

「……その、花は?」

「ツツジ。蜜がおいしいから、吸ってると落ち着くんだ。これ吸って考えよ?」




……じゃあ、きみの呼び名は……




「……だったら……ツツジ……って、呼んでいい?」




「……ん、いいよ。それでいい。じゃあとりあえずはそれで!」

「やった……ツツジ、ツツジ!」

「はいはいツツジでーす」


ツツジは、上手に採ったその花の蜜を吸いながら僕の呼ぶ声に答える。


「呼び名とルール決めたら……僕達、これからどうするの?」


蜜を吸う口がピタッと止まる。

そして、開く。




「……聞いたことがあるの。あっちの山の方に、不幸な子供達を救うっていう、秘密の集まりがあるんだって。だから、すぐそこの駅を抜けて、あっちの山に行こうと思う。」




秘密の集まり……

なんだか楽しそう。


「そこに、行くの?」

「うん。行こうと思う!食料もそこで。あ、でも、もしかしたら着く前に尽きちゃうかもしれないから、大事に食べて。」

「分かった、気をつけるね」


長い旅になりそう。

でも、わくわくする。

退屈で誰にも縛られない浮浪だ。

楔って何だっけ?

忘れてしまいそうに。


「……そろそろ出発しよう。ますい君、そのパーカー貸して!」

「えっ!?」

「言ったでしょ?あたしの両親はまだご健在なの。あたし、顔を見られたらアウトだから。」

「あ、そういうことか!……はい、どうぞ!」

「本当ありがとね!しばらく着させてもらうよ!」


パーカーを着て、フードも被るツツジ。

自分の格好も気にせず、とびだしていく。


「……って、えっ!?もう出るの?」

「うん!早いところその集まりに行こ!」

「も、もし、噂が嘘だったら、どうするの……?」

「……その時は……その時だよ!」


そう言って笑って見せるツツジ。

……ツツジといつまでも一緒にいられるような、どこまでも一緒に行けるような。

そんな安心感。

さて、行こうか。

僕達の目標へと。

頑張って必死に生き抜いて見せるから。







***







「……あの子達、もしかして困ってるのかな!?」

「あっ、路地裏にツツジの花が落ちているな」

「あの子達のかな?一応持っとこ!」

「はっ……もしかして、あっちは」シュッ シュタッ

「おお、さすが身体能力抜群!あっという間に建物の上に!」

「やっぱり……高い所から見ると分かる!あの子達、私達の集落がある山の方向に向かってるぞ!」

「もしかして、あたい達の倶楽部の噂を聞きつけた子達なのかな?じゃあやっぱり困ってるってことじゃん!一応部長に電話しなきゃ!」

「よっ……と」ヒューッ スタッ

「新しい困った子供の予感……あたい、腕が鳴るよ!ねっ、"さね"さん!」

「ああ……部長の許可を貰ったら、あの子達の追跡を開始しような……"さくき"」






※ちなみに元のタイトル

『世界荒廃パラノイア』

伏線を盛大に残して終わりやがった。

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